CHOCOLATE KISS

□幸せのチョコレートキス
1ページ/4ページ



今ふたりは、慎也の部屋に居る。

8畳程の洋室ワンルーム。
ここで慎也は生活をしている。

様々な大型家具で埋められているその部屋は、決して広くはない。

だが、ふたりの間に漂う雰囲気が、ポカッと妙な広さを感じる。


ベッドの上には洋助、少し離れたひとり掛けのソファーには慎也が、ベッドの背を向ける形で座っている。


洋助は頻りに鞄を気にしている。

開ける訳ではないが、しっかりと両手で抱え込み、たまに下を向いては口を閉じているのを確認する。

そして、宝物かの様に、胸の前にしっかりと抱え込む。


慎也はその、洋助の落ち着かない行動を、背中で感じていた。

それでも、動く事も、視線を送る事もできないでいる。

顔もみれない。
息をするのさえ苦しい。

死刑執行を待つ罪人……それが今の慎也に一番近い心境だろう。




「…たくさん貰ったな」

ふと、そんな空気を裂くように、洋助がポツリと呟く。
その視線の先には、今日慎也が貰ったチョコ。


ピクリと体を強張らせながらも、この白けた空気の中でも、声をかけてくれる愛しい人に、慎也は心から感謝する。

久し振りに聞いたその声にも、軽い感動を覚えた。


あぁ、自分はこんなにも彼を必要としているんだ…改めて、そう感じた。

しかし、慎也は最初は洋助が何の話をしているかが判らなかった。
なので、彼からの次の言葉を待って、口を出さずにいた。

だが、洋助からの言葉はなかった。


続ける言葉を捜しているのか、あるいは…

「何が?」と、耐えきれずに発した慎也の声は、妙に掠れて絞り出す様になった。
しかし、背は向けたまま。
顔が見れずにいるのは変わらず。

「それ……チョコ。…バレンタインの……だろ?」

どこか不貞腐れたような響きのあるそれに、慎也は微かな希望を感じた。

まさか、妬きもち…?

これを意識的にやっているなら、この洋助という少年は、相当の小悪魔なのだろうが、無意識だから、余計に始末が悪い。

慎也もこれに引っ掛かったのだから。


意識的か無意識か、洋助は仕切りにそのチョコ達を気にしている。

貰って嬉しかった?
お返しとか考えてる?

自分も男だから、思いの丈を詰め込んだのを貰って嬉しくない訳はないが、それでも気になる様子だ。

その姿が可愛いのだと、本人に伝えた処で、理解は出来ないだろうが。

「…気になりますか?」
ちらりと洋助をみやり、意地悪に聞いてみる。

今感じた細やかな希望を、しっかりと掴み取りたいから。

「…そりゃ」気になるだろ、と、口を尖らし呟く。

だって…と、続けるものの、この先を紡ぐにはまだ、プライドが邪魔をする。

しかし、慎也は更に問う。

すす、と、洋助の足元にすがり、甘える様に見上げる。
「何で?」
狡い様だが、ここは“年下”である事を最大限に利用させてもらう。

そんな慎也の甘えた行動に、耳まで赤くなり、言葉が出ないのか、口を金魚の様にパクパクとしている。
驚きに見開かれた瞳には、慎也がはっきりと映し出される。

緊張しているのか、それとも男のプライドか、続く言葉はない。


―――もう、プライド高いんだから…

ふっと、苦笑いをしながらも、そんな洋助も愛しくて堪らない。
そんな慎也もいい加減、盲目なのだろう。

だが、ここは洋助に一歩踏み出して貰いたい、本当の気持ちを訊きたい、プライドは横に置いておいて貰いたい。

今までは慎也が引いてきた。彼にどうしつも強く出れない、プライドを尊重してきたのだ。

だからこそ、繰り返しでは駄目だ。

自分も引かないから、その愛らしい唇からちゃんと“好き”と聴きたい。


「教えて?洋助さんの口から聴きたい」

淋し気な上目遣いで問えば、洋助はうっ、と、言葉を詰まらせる。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ