CHOCOLATE KISS
□幸せのチョコレートキス
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今ふたりは、慎也の部屋に居る。
8畳程の洋室ワンルーム。
ここで慎也は生活をしている。
様々な大型家具で埋められているその部屋は、決して広くはない。
だが、ふたりの間に漂う雰囲気が、ポカッと妙な広さを感じる。
ベッドの上には洋助、少し離れたひとり掛けのソファーには慎也が、ベッドの背を向ける形で座っている。
洋助は頻りに鞄を気にしている。
開ける訳ではないが、しっかりと両手で抱え込み、たまに下を向いては口を閉じているのを確認する。
そして、宝物かの様に、胸の前にしっかりと抱え込む。
慎也はその、洋助の落ち着かない行動を、背中で感じていた。
それでも、動く事も、視線を送る事もできないでいる。
顔もみれない。
息をするのさえ苦しい。
死刑執行を待つ罪人……それが今の慎也に一番近い心境だろう。
「…たくさん貰ったな」
ふと、そんな空気を裂くように、洋助がポツリと呟く。
その視線の先には、今日慎也が貰ったチョコ。
ピクリと体を強張らせながらも、この白けた空気の中でも、声をかけてくれる愛しい人に、慎也は心から感謝する。
久し振りに聞いたその声にも、軽い感動を覚えた。
あぁ、自分はこんなにも彼を必要としているんだ…改めて、そう感じた。
しかし、慎也は最初は洋助が何の話をしているかが判らなかった。
なので、彼からの次の言葉を待って、口を出さずにいた。
だが、洋助からの言葉はなかった。
続ける言葉を捜しているのか、あるいは…
「何が?」と、耐えきれずに発した慎也の声は、妙に掠れて絞り出す様になった。
しかし、背は向けたまま。
顔が見れずにいるのは変わらず。
「それ……チョコ。…バレンタインの……だろ?」
どこか不貞腐れたような響きのあるそれに、慎也は微かな希望を感じた。
まさか、妬きもち…?
これを意識的にやっているなら、この洋助という少年は、相当の小悪魔なのだろうが、無意識だから、余計に始末が悪い。
慎也もこれに引っ掛かったのだから。
意識的か無意識か、洋助は仕切りにそのチョコ達を気にしている。
貰って嬉しかった?
お返しとか考えてる?
自分も男だから、思いの丈を詰め込んだのを貰って嬉しくない訳はないが、それでも気になる様子だ。
その姿が可愛いのだと、本人に伝えた処で、理解は出来ないだろうが。
「…気になりますか?」
ちらりと洋助をみやり、意地悪に聞いてみる。
今感じた細やかな希望を、しっかりと掴み取りたいから。
「…そりゃ」気になるだろ、と、口を尖らし呟く。
だって…と、続けるものの、この先を紡ぐにはまだ、プライドが邪魔をする。
しかし、慎也は更に問う。
すす、と、洋助の足元にすがり、甘える様に見上げる。
「何で?」
狡い様だが、ここは“年下”である事を最大限に利用させてもらう。
そんな慎也の甘えた行動に、耳まで赤くなり、言葉が出ないのか、口を金魚の様にパクパクとしている。
驚きに見開かれた瞳には、慎也がはっきりと映し出される。
緊張しているのか、それとも男のプライドか、続く言葉はない。
―――もう、プライド高いんだから…
ふっと、苦笑いをしながらも、そんな洋助も愛しくて堪らない。
そんな慎也もいい加減、盲目なのだろう。
だが、ここは洋助に一歩踏み出して貰いたい、本当の気持ちを訊きたい、プライドは横に置いておいて貰いたい。
今までは慎也が引いてきた。彼にどうしつも強く出れない、プライドを尊重してきたのだ。
だからこそ、繰り返しでは駄目だ。
自分も引かないから、その愛らしい唇からちゃんと“好き”と聴きたい。
「教えて?洋助さんの口から聴きたい」
淋し気な上目遣いで問えば、洋助はうっ、と、言葉を詰まらせる。
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