七つの世界のかけら
□今君に伝えたい事のいくつか
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光輝がいなくなって一週間が過ぎた。
俺は友に申し訳がなく、また、こうして彼が暮らしていた小さな城に足を向けた。
6畳一間の部屋には、人の気配がない。
が、生活感は未だに残っており、少し前までは主人がいた事を物語る。
小さなタンスの上には、溢れんばかりの笑顔の友と妻の姿が写っている写真が、物言わず飾られている。
あの日―――光輝が生まれた日に初めてあった彼女は、大仕事を終えてやつれていたものの、眩しかった。
横に眠る生を受けたばかりの我が子を愛しそうに眺め、ポツリと呟いた。
―――全てを変える子よ。
その言葉に友は深く頷き、あぁ、選ばれた子だ。そう言葉を紡いだ。
当時は愛しの我が子に与える賛美のひとつと考えていたが、どうやらそれは違うと解ったのは、光輝の母親が亡くなる少し前だ。
ふたりは恐ろしい程に真剣な面持ちで、俺にこう言った。
―――その日が来るまで見守ってあげて。
意味が判らなかった。
問い質しても曖昧に笑うだけで、意味は教えてくれなかった。
それから間もなく母親は天に召された…
それからの彼は、光輝の為だけに生きてきた。
いや、もしかしたら、俺には気付かなかった、もっと広い世界の為に生きていたのかも知れない。
ふたりは自分の死期が判っていたのだ。
その上で、見守る役目を俺に託したのだ。
だからこそ、彼は召される前に俺に全てを託したのだ。
何故?
光輝が消えたのと関連があるのか?
俺は家具が少ない部屋の真ん中に座り、考えた。
もし、本当に光輝が選ばれた存在なら、今いないのが運命なら、逃れる術はあったのだろうか?
俺は今、何が出来るのだろうか?
ただ出来るのは、彼が戻ってきた時に、安心出来る場所を作るだけだろうか…
―――全てを変える子…
そう呟いた彼女の辛そうな表情が忘れられない。
―――運命の子…
そう吐き出した彼の悲痛な声が未だに耳に木霊する。
今、全てを変える運命に立ち向かっているんだろうか?
それを離れている俺に、手助け出来るだろうか?
だが、思い付かない俺は、この光輝の小さな城を彼が戻ってくる日まで守ろうと誓う。
そして、彼に再び会ったら伝えるのだ。
君に伝えなければいけない言葉、を。
―――お前の父さんも母さんも、勿論俺もお前を愛している。
それは永久に続く愛の言葉なんだから。
俺は、小さな部屋を後にした。
次来る時はこの言葉を伝えるのだ、そう、心に願って。