よろずBook
□月と太陽は恋をする
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レッドがなにやら物騒な事を呟いていたその頃、ゴールドはグリーンに連れられて城内を歩いていた。歩き出してから何も話さず歩くグリーン。歩く以外にすることが無く暇になったゴールドは周りを見つつグリーンを観察していた。
そうして三分程歩いていて分かった事はグリーンがゴールドの歩幅に合わせて歩いてくれていることと、城内の装飾に月がモチーフにされているものが多い事とあともう一つ。
「グリーンさんとレッド先輩って付き合ってるんですか?」
少し歩く速度を上げて隣からのぞきこむようにして訪ねる。ぴくっと反応を示したグリーンにあぁやっぱり、と内心ニヤリと笑う。グリーンが少し眉をしかめて足を止めた。
「そう思うに至った理由は?」
「えとですね、ピアスです。グリーンさんが今つけてるピアス、レッドさんがつけてるピアスと同じ…というかストーンの色違いですよね。幼馴染みとはいえ年頃の男女がお揃いのピアスつけてたら疑いますよ、えぇ。」
「そうか…やっぱり、そうだよな…」
「え…、どうしたんですか」
ちょっとした探偵ごっこのつもりが、予想とは少し違うグリーンの反応に恐る恐る聞くゴールド。手を目に当てて上を向きながら「あ゛ー…」と唸るグリーンは先ほどまでの無愛想なイメージと少し違う。レッドさんと関係するからだとゴールドは確信した。
「…別に、付き合ってるわけじゃない。」
「え」
「ピアスは俺から贈った。告白のつもりだったが、あのド天然には伝わらなかったらしい。」
「…え、まさか、いや、えー…前から天然だなとは思ってましたけどそこまでだったとは……なんかすみません」
「いや、気にするな。こちらこそすまない。そんな事より行くぞ。」
自分の話より優先すべき事を思い出したのか項垂れたようにしながらもまた歩き始めるグリーンに、慌ててついていくゴールド。グリーンを見る表情には、同情の色が見え隠れしていたが幸運な事にグリーンには気づかれなかったようだった。ちなみに当人であるグリーンは、初対面の人間にこんな事を話すなんて…しかも仕事中に一瞬でも陛下からのご用命を忘れるとは!という思いでいっぱいだったりしていた。
この後レッドを通して仲良くなる事になる二人の、一番最初のまともな会話である。
「…着いたぞ。この奥に陛下がおられる。」
「そういえば、その陛下殿は一介の踊り子と一体何を話すつもりなんですかね?」
「…陛下のお考えは俺に理解できるようなものでは無い。ただ、嫌ならちゃんと拒絶する事だ。」
「レッドさんもそうでしたけど、それってどういう意…「陛下、踊り子をお連れしました。」(えー……?)」
グリーンは素晴らしきスルーで扉に向けて声をかける。ゴールドが不満を言葉にする前に返事としてか扉が開いたとのと、言葉を飲み込んだタイミングは同時だった。
「ようこそ、入るといい。」
「失礼します。」
慌てて背筋を伸ばし失礼にならないよう気をつけながら部屋に入る。全く知らないとは言え相手は一国の王、小さな無礼が国同士の戦いに発展することもある。ゴールドは気を引き締めて王の前まで行き、自国で礼儀作法として習った通りに膝をつき頭を下げた。後ろで束ねられた長い髪がはらりと肩から落ちる。
「顔を上げなさい。」
「…はい。」
王に言われ顔を上げる。見上げる王はシルバーとはまた違った雰囲気を持つ男だと思った。その時、ゴールドの後ろに立つグリーンは膝をついているゴールドに数年前のレッドを思い出していた。その時もグリーンは、後ろから全てを聞いていた。果たしてこの少女はレッドと同じようにいくだろうか。
「私の名はサカキ。水の国の王をしている。君の名をお聞かせ願えるか。」
「ゴールド、と言います。」
「そうか、良い名だ。わざわざすまないな、君にどうしても頼みたい事があってこうして呼び出したのだ。」
「頼みたい事、ですか?」
「あぁ。…要約して話すと私の息子と婚約して欲しい。」
「婚約……って、は!?」
素に戻った反応のゴールドに、サカキは少し笑いながら続きを話す。グリーンはただ、その様子を見つめていた。
「驚くのも仕方ない。何せいきなり婚約だからな。」
「陛下、王子には、私のような踊り子よりもっと相応しいお方がおられると思うのですが…」
王子と婚約などとんでもないと思う。踊り子は国の中で比較的高めの位の家系から出るものだが、王族と比べるとなるとその位の差はやはり大きい。ゴールド自身、身分などどうでも良いと思ってはいるが周りに与える影響を考えるとどうにも承諾はしづらかった。
「いや、私の目に狂いは無いはずだ。君の踊りを見せてもらったが、あれほどの踊りが出来る者が身分などというものに縛られるのは好ましくない。」
「ですが陛下、私は王子の事を全く知りません。王子も私の事など知らないでしょう。お互いの事を知らぬままの婚約など…、たとえ陛下の頼みでも私はお断りします。」
ゴールドの言葉にサカキは口を紡ぐ。ゴールドは言いたい事を取り合えず主張できてほっとしていた。…だが、これがもしサカキの機嫌を損ねたりしたら。最悪の場合まで想定してしまいもしかしたら大変な事をしてしまったのではと顔から血の気が引きそうだったが、レッドやグリーンの「嫌ならきちんと拒絶しろ」という言葉を思いだしとりあえず今はサカキの言葉を待つことにした。
「…お互いの事を知った上で決めるのなら良いのだな?」
「は、はい。」
「では、しばらくの間シルバーの婚約者候補としてここにいてくれないか?」
「婚約者候補?」
「あくまで、候補としてお互いの事を知り、その上で返事が欲しい。」
サカキの言葉に、先ほど会場で見たシルバーを思い出す。自分に踊り子と自分自身の2つの面があるなら、シルバーにも王子としての面以外に何かあるのではないか。純粋に、知りたいと思う。理由はよく分からないが気になるのだ。
「…それならば、喜んでお受けします。」
「そうか、良かった。グリーン、彼女を部屋に案内してくれ。」
「…御意」
「失礼しました。」
ゴールドはサカキに一礼して、グリーンと共に広間を出た。ドアが閉まると同時に、足の力が抜けへたりこむゴールド。
「おい、大丈夫か」
「あー…、大丈夫っす。ちょっと気が抜けただけなんで、すみません」
ゴールドは手を差し出すグリーンにへらりと笑いながら立ち上げてもらう。自分で思ってる以上に緊張していたのか、と歩き出しながら心の中で呟いた。
「良いのか、若との事」
「良いんす、自分で決めた事ですから。お二人が言ってたのってこの事だったんすね。」
「あぁ。」
「…その、王子ってどんな人なんですか」
「勘違いされやすいお方だ。話していて、冷たいだけだと思ったならそれは若をよく見ていないからだ。」
「本当はお優しいお方だよ」と、話すグリーンの目が優しげなのが見えたゴールドは少し不安が消えたような気がした。そうして王族のしきたりやこの国が月を崇めている国だと言う事についてなど、様々な話をしている内にグリーンが足を止めた。
「ここがお前の部屋だ。」
「え、もしかしてこのまま住み込んじゃうんすか?」
「あぁ。着替えもこちらで用意する。」
「なら、レッド先輩にこの事言わねぇと!」
「オレから伝えておくが?」
「良いんすか?」
「どうせ話す事はたくさんある。とりあえず時間まで休め。」
「ありがとうございます…。」
グリーンに促され部屋の扉を開ける。室内を見ると、広すぎる部屋に動きが止まった。それでもとりあえず部屋に入り、グリーンから説明を受けた。
「着替えはクローゼットの中から好きに選んで良い。風呂は奥の扉だ。何かあったらそこに置いてあるベルを鳴らせばいい。他に質問は?」
「えーと…特に無いです。」
「じゃあ、時間になったら呼びに来る。」
「はい、ありがとうございます。」
そうして、グリーンは部屋から出ていった。ドアの閉まりきる音を聞いてから、ゴールドはベッドに倒れ込んだ。ふかふかとした布団に疲れも伴ってか、意識がだんだんと遠退いていくのを感じた。
「(振り付けどうしよっかな……王子どんな奴なんだろ…でも、なんかねむ…ぃ…)」
考える事は後回しにして、ゴールドは現実世界から夢の世界に落ちていった。
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急展開は魔がさしたと言いますか…←
ストックを書いてるうちに話が進まない!?と思い急遽書き直しました。そしてシルバー出てこないw
取り合えず敬語って難しいですね…もっと真面目に勉強すべきだった…!
こんなんで良いんだろうか…
2010.09.05 幻灯