よろずBook
□携帯獣
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真っ暗、言い様の無い不安、探しても奴はいない
目を見開けば見慣れた部屋の天井が目に入る。辺りは月の光でほのかに明るく、夢だったのかと心の底から安堵した。今いる部屋の暗さとは明らかに違う暗闇の中。感覚すら曖昧で不安なその時、真っ先に求めたのは幼馴染みでも母でもポケモンでもなく奴だった。
厳しい言葉やキツい態度、それでも優しく自分を想ってくれているシルバー。知らぬ間に濡れていた頬に気づいて胸が締め付けられるようだった。横にいたならば慌てながらも真っ先に涙を拭ってくれるであろうシルバーは今いない。
会いたい。抱き締められたい。キスしたい。存在を感じたい。
普段なら絶対に表に出さない感情が次から次へと溢れだし、それに同調するかの様に涙が落ちた。
「オレ、気持ちわる…」
「可愛いと思うがな」
「は…?」
聞こえるはずの無い声のした方に視線をやれば開け放してあった窓に足をかけているシルバーの姿。思わずポカンと動きを止める。いつものように躊躇(ためら)い無く人の部屋に入り込むシルバーにあぁ、幻とかじゃないんだと他人事のように感じた。
「シルバー…?なんでこんな時間に」
「会いたくなったから」
「いつもは来ないだろっ」
「今回は来た」
ゴールドの涙を指ですくい、抱き締めた。
「いみ、分か…んねぇよ…」
シルバーは糸が切れたかのように泣きじゃくるゴールドの背を、親が子にしてやるようにぽんぽんと撫でてやる。そんな行動すら嬉しくて、ゴールドはシルバーの服を掴む力を強めた。
「落ち着いたか?」
「ん…」
「俺はここにいるからな」
「っ…!あぁ…絶対、離れんじゃねぇぞ」
「当たり前だ、頼まれたって離れない」
「……その…あ、ありがと」
急に恥ずかしさが甦ってきて顔を見られないようにシルバーの胸に頭を押し付けた。シルバーが少し笑ったのが分かったが今の自分のひどい泣き顔は見られたくないから顔は上げない。夢の中とは違うあたたかく安心できるふわふわとしか感覚にゴールドはゆっくりと意識を手放していった。
「あら?シルバー君が来てたのね。ふふ、仲良く寝てる…」
いつもの様に朝ゴールドを起こしに来た母が、仲良く眠るゴールドとシルバーを見て微笑みを浮かべていた。
end.
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ゴールドを泣かせたくて、シルバーに背中ぽんぽんさせてたくて、
お母さんのせりふが書きたくて
やらかしました。
イメージとは違うものになってしまいましたが、これはこれで満足です(^^*
2010.07.18 幻灯