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□音芸
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兄様が特別といって僕に与えてくれたものと言えば、痛みと言葉と所有印の三つであったような。





兄様は普段からあまり喋らず、しかも必要以上に人と関わるのを嫌っておられていたので、いつしか周りからは無口・冷徹・無愛想だと言われ続けていたのです。そんな兄様と僕が兄弟であるというのに恋仲だという噂が広がりだした時は、それはもう軍中に波紋を呼ぶことになりましたし、同期の人間や上司からは噂は事実なのか、真実ならば何故、とよく聞かれたものでした。ですが、そんな事を聞かれても僕は即答することが出来ないのです。確かに僕は兄様に特別な感情を抱いていたし、兄様も僕に何か特別な感情を抱いていたのだと思います。ただ、それが世の中でいう『恋』とか『愛』なのかと聞かれると、どうにも頭を抱えてしまうです。どちらかというと兄様は僕を人形のように扱った(色んな意味で)し、僕も兄様に対しては普段の僕では考えられないような態度で接していた。けれどもそんな僕らの間に流れていた空気は恋や愛などの甘ったるいものでは無く、淡々とした…むしろ冷めたような空気だったと思うのです。けど何故か、兄様はそんな空気を嫌っておいでで(その空気は他でもない兄様と僕が作り出したものだと言うのに!)よく急に饒舌になっては様々な事柄についてお話し出したりしました。僕に暴力を振るいながら。顔を殴られ、腹を蹴られ、時には命の灯火が消えかけるほどの大怪我をした時もありました。だけど、頭を蹴られ、薄れていく意識の中で僕は、今にも壊れてしまいそうな…後悔や快感や自責の念が入り交じった兄様の瞳を見つめるのも楽しかった…というよりも安心したのです。内に秘める狂気を、二人に共通するものを、兄様は僕を殴ることで、僕はそれを受け入れ兄様の目を見つめることで確認しあっていただけなのです。そう、それこそが、僕達の間での愛だった!








今まで語ってきたことは全て過去形。ということは今は違う。今兄様は僕の目の前で棺という名の箱の中に横たわっておられます。戦争の最前線にて鬼神のような功績をあげたのち殉職。箱の中を埋め尽くす白い花たちは、兄様の美しい金髪と兄様だけが着る事を許された軍服の紅を際立たせておりました。今、兄様の前に突っ立っている僕の胸の中にあるのは兄様が僕を置いて逝ってしまわれたんだという絶望感とついに最後まで大切な言葉を伝える事ができなかった後悔。




ぼやけてゆく視界。頬を伝っていく液体が、床に落ちて色を変えていく。









お慕いしておりました
(そんな一言すら、伝えられずに)





end,



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昔別CPで書いていたものを國極風に書き直してみました。


ものすごく不満の多い(笑)ブツなので、いつかまた加筆したいと思います。

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