小説用

□1日1回は電話をする
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「刹那・・一体何の嫌がらせだ?」

「・・・。」



ロックオン・ストラトスはぐったりと刹那の家の戸口に身をもたげながらそう言うと、未だ落ち着かない呼吸を整えた。

項垂れたまま、それでも見下ろす形で目が合うこの小さな子供相手に、どうして自分がこんなにも日々奮闘しなければならないのか・・?それが近頃のロックオンの自分の人生に対する疑問である。



自分は世界を変えるためにテロリストの仲間入りをしたはずなんだ。子供のお守り役になった覚えはない。



・・ロックオンはそんなことを思いながらも、結局はいつものお約束であるこの年少者へのお説教をせざる得ないのだった。



「・・刹那、俺言ったよな?マイスターたるものいつどんな危険な目に遭うかわからないから、一日一回必ず連絡するようにって・・。」刹那はそれにこくりと頷く。



「・・刹那、お前さんは賢い子だ。まだ15歳のお子様なのにエクシアの操作はお手の物だし、何より戦闘のセンスがある。だから俺は戦場でもお前に背中を預けてもいいと思えるくらいお前を信頼しているし、大切な仲間だと思っている・・。」



つい感情的になっていたロックオンは、思わず『大切な仲間』という所に想いを込めて言ってしまったが、今重視するポイントはそこじゃない。そして刹那もまた、お子様という単語に反応して顔を顰めているようじゃ世話がないのである。

もっとダイレクトにお説教せねば・・と、反省したロックオンは「なのに、何ーで電話っていう至極簡単なことができないのかなせっちゃんは?」と、精一杯の嫌味ぽくそれを言ってやったのだが、刹那はわかっているのかいないのか、その態度は相変わらず無反応で、変化に乏しい。



「ったく、よぅ・・お兄さん心配で宇宙から飛んできちゃったでしょうが!;こいつは俺がお前さんの身を心配しての勝手な行動だから組織から交通費もでないんだぞ?わかるか!俺が言いたいこと!?」



興奮と、先程まで走っていたのも相まって、ゼイゼイ息をつくロックオンに、刹那はただ「いくらだ・・?」と財布を取り出して、的外れなことを聞くものだから、ロックオンはがくりと更に肩を落とすしかない。誰が自分より8つも下の子供に交通費を払ってくれなんて言うのだ?



「ちげーよ!;誰が子供から金巻上げるためにそんな・・」

「・・ああ、電話の話だったな。すまない、忘れていた。」



・・やっと応えた刹那の返答は実にあっさりしたものだった。いや・・忘れてたって。そこに反省した様子も見られない。



「あのなぁ!お前・・っ!」

「ロックオン、大声は止めてくれ。こんな時間に近所迷惑だ。」

「・・・。」



この子にもそういった気遣いが身についたとは・・。あの非常識な刹那が、である。刹那の教育係であるロックオンとしては喜ぶべきことなのだが、今の状況ではさすがに手放しでは褒めてやれなかった。ちらりと時計を見やれば確かにもう12時過ぎ・・宇宙への最終便はもう間に合わない。



それに落胆としたと同時に沸々とその原因である刹那に腹がたってきたロックオンは「じゃあ、上がらせてもらうぞ!」と有無を言わさず、ずかずか家の中へと乗り込んだ。



人との馴れ合いを嫌い、プライバシーを気にする刹那のことだ。当然、怒って「来てくれと頼んだ覚えはない!帰れ!」とでも言うと思ったのだが、刹那は何も言わずにロックオンの後に付いてくる。



こりゃ、ちょっとは反省してるのだろうか・・?相変わらず殺風景な部屋に入ったロックオンは、今度は改装しに来てやろうなんて勝手なことを考えながら「おい、お客が来たらお茶ぐらい出したらどうだ?」と未だ収まらない苛立ちをぶつけるように言った。



するとすぐさま「ああ・・。」と本当に、ティーカップがでてきたので驚いた。



「えっ?;」



早いにもほどがある。この短時間じゃ、普通お湯だって沸かない。



「・・お前こんな時間に真夜中のティーパーティでもしてたのか?」



だって事前に用意でもしておかないと、このタイミングでお茶はだせないだろう。まさか思ってと聞いてみるたのだが、刹那はそれを無視して、「座れ。」とロックオンを数少ない家具であるベッドの上へと促した。



「・・どうも。」



刹那はがたがたと最近買ったらしいローテーブルをひっぱりだしてきて、その上に甘い香がふわりと漂う紅茶を置いた。



「・・刹那、お前これ、」



お前の好み?と聞こうとすると、それを遮り「ケーキは好きか?」と刹那が聞く。



「へ?;」唐突なその質問に思わず黙ってしまうと、「嫌いか?」と刹那が詰め寄るように聞いてきたので、「あ、いや!・・好きだけど。」とロックオンは慌てて答える。



すると、あろうことか、今度はケーキらしき箱が運ばれてきたものだから、ロックオンは更に驚愕した。



「えーっと、刹那さん・・?」

「隣のやつに貰ったんだ。どれがいい?」



箱の中を覗き込めば、色とりどりの綺麗なケーキがいくつも並んでいる。



「えーっと、じゃあモンブラン?;」と刹那の反応を伺えば、「了解。」とすぐさま応えたので、正解だったらしい。・・刹那はこういったときに自分が一番好きなのを選ばれると返事はしつつも、ちょっと間を空けてから残念そうに返事をするのだ。



それでもわがまま言って自分はこれがいいと主張しないところが刹那のいいところであり、悪いところでもあるのだが・・。



刹那は苺のショートケーキを選んだ。食べ始めると同時にいきなり苺から食べるところが、好きなものを後回しにはしておけない環境で育った刹那の癖。いきなり苺が食べられてちょっと寂しい感じの白いケーキを刹那は、無表情ながら喜々とした表情で食べる。



・・よし、今度の誕生日はショートケーキだ。って、そうじゃなくて。



本来ここに上がった理由をふと思い出したロックオンは、何とか再びお説教に話を持っていこうとしたが「食べないのか?」とあの大きな目でじっと見つめられて、小首を傾げられちゃ敵わない。



「食べるよ。うん、おいしい!」

「それは良かった・・。」



刹那はそう言って微かに頬を緩めると、あっという間にケーキを平らげ、今度は「ゲームをしないか?」と来た。



おい・・お説教。



今度こそ!と思い、「あのな、刹那・・」と言いかけるも、「隣のやつが貸してくれたんだ。」と嬉しそうに語りながら、ゲーム機を引っ張り出してこられちゃ言葉につまる。



「あんたは射撃も得意だからこういうのもできるだろう?」

「あ、ああ・・そりゃまぁできるけど。」



・・待て、何かがおかしい。段々とその意図を察してきたロックオンはわざと「悪い刹那・・俺明日ミッションだから帰らないと。」と鎌をかけると、刹那はあからさまにがっかりした表情。・・やっぱり。



「・・ああ、悪い。ミッションは明後日だった。」そう言ってやれば、ぱっと顔を上げて、嬉しそうな顔をする。



「それは良かった。じゃあ朝まで付き合ってくれるな。」

「えっ?;朝まで・・?」



そのお誘いがもっと自分の意図することであれば喜んでお付き合いさせて頂きたいものだが、色気のへったくれもないゲームで徹夜だなんて、まっぴらごめんだ!



ロックオンは慌てて「刹那、俺やっぱ着替えもないから、どっかのホテルに・・」と言いかけるが「それなら心配無用だ。」と刹那に遮られて辟易する。



「着替えなら、買ったばかりのスウェットがあるからそれを貸してやる。」



そう言って手渡されたものを見れば、明らかに刹那のものではありえないLという表示があって、ロックオンは思わず乾いた笑い声をたてた。



「刹那、おまえさんやっぱり・・。」



しかし、計画的で確信犯なくせして無邪気な子供に「明日はちゃんと電話するから。」と必死に言われちゃ大人は敵わなかった。



苦笑したロックオンはゲームのコントローラーを仕方なく手に取ると、ついでにその小さな肩も抱き込んで強く引き寄せた。



END



――・・・・・・・・



・・・呼び出さないことが呼び出しベル。来て欲しい、だなんて絶対言えない。そんなお話。。

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