小説用
□銃口を人に向けるのは最終手段なんかじゃない
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油断していた。
俺が、こいつの侵入を許してしまうなんて。
「刹那がエクシアのコックピットから降りてこないっておやっさんが嘆いてたぞ」
こいつ、もといロックオン・ストラトスは、いとも簡単にエクシアのコックピットを外から開けた。予想だにしていなかった事態に、俺は少しの間固まる。
パイロットスーツのまま、ロックオンは手を差し出してきた。
「…俺はエクシアからは降りない」
「頑固だな。そんなにエクシアが好きか」
「…俺の機体だ。何が悪い」
口を尖らせて言うと、ロックオンは声を上げて笑った。
「そりゃそうだな。…でもさ刹那、人と関わっていかない限り、お前は機体とも正面から向き合えないと思うぞ?」
「……。…お前に言われる筋合いはない」
「そうはっきり言いなさんな。…ほら、」
ロックオンは俺に手を伸ばす。
ここは俺の神聖な場所で、俺の罪の場所だ。誰かが入っていいところではない。
「出ていけ!俺の領域に入るな!」
「…強情だな。なら、無理にでも連れてくぞ」
左手を掴まれる。
俺は反射的に右手で支給されていた銃を向けると、ロックオンは動きを止めた。
そして、はあ、と溜め息をつく。
「刹那、」
「俺に、触れるな!」
ロックオンの腕をほどこうとした左手は引っ張られ、衝撃と同時に体が何かに包まれる。その何かはロックオンであるが、俺は気が動転していて気付けなかった。
「…刹那、寂しいなら、エクシアじゃなくてこっちに来い。俺は、お前を抱き締めてあげられる」
…不覚にも、『そうだ』と思ってしまった。何にも言わない冷たい機体よりも、話せて体温のある人の方がはるかに素晴らしいことも知っているから。
でもそれをしないのは。
「っ…捨てていけるようにしておかないと、…弱く、なる…っ」
「…弱くていい。そのために俺たちサポート組が居るんだ」
介入行動の鍵はエクシア。
だからこそ俺は、その責任のために強くならなければならない。
ロックオンが俺の頭を撫でた。グローブで体温はわからないが、それだけで俺は嬉しかった。
抱き締められたまま俺は銃をホルスターにしまって、ロックオンの胸に体を預ける。
「…出るか」
その一言にコクンと頷くと、ロックオンは俺の手を引いてコックピットを出た。
宇宙特有の浮遊をしながら、通路前に着地した。
「お、出てきたか」
「おやっさん」
「後はエクシアの整備のみだ。すぐに直してやるぞ」
俺に気を遣ったのか、イアンは俺にそう言った。
「…ありがとう」
イアンと床を交互に見ながら俺は呟く。イアンはそれ驚きながらも、「了解」と言ってくれた。
「良かったな、刹那」
ロックオンの言葉に頷くと、イアンが笑い出す。俺はその様子にクエスチョンマークを浮かべた。
「おやっさんはお前さんがちゃんと俺に応えたのが面白いんだとよ」
ロックオンに言われて、俺は顔を赤くする。
「おおお俺に触れるな!!///」
つながれていた手をバシッと叩いて離れ、俺は更衣室へと向かった。ついてこないロックオンに怒りが沸く。
『俺はお前を抱き締めてあげられる』なんて気障なセリフ、信じる方が間違ってるよな。
それでも、その言葉が嬉しかったっていうことは、絶対に言ってやるもんか。
銃口を人に向けるのは最終手段なんかじゃない
(教訓。)
(コイツを拒否するには、銃口を向けることは論外。)
(………最終手段ならまだ他にあるんだからな!)
2009.9.18.