SS
□0 Fool(愚者)
1ページ/1ページ
「かあさん・・・・・・。」
僕は、白い布がかけられた顔を見つめ、一言呟いた。
震える手でその布をめくると、青白い、よく見馴れた顔があらわになる。
『母さん、本当に死んだんだ・・・・・・。』
僕は再び現実を突きつけられた。
僕の家は貧しかった。だけど幸せで溢れていた。
父さんのことはよく覚えていない。僕の父さんは冒険家だった。
僕が生まれた頃から家にはおらず、いつも母さんと二人暮らし。でも母さんは決して文句は言わなかった。逆に母さんは父さんのことを笑顔で話していた。
父さんは、銀河の降る場所を見つけた人なのだと・・・・・・。
一度、僕が小さい時、父さんは家に帰ってきた。
たった一晩しかいなかったけど、父さんは僕を膝の上に乗せて言った。
「世界は広い。見るものは沢山ある。」
そして笑った。
次の日、目が覚めると父さんはもういなかった。
10年後、母さんは病気で倒れた。
余命1ヶ月と宣告され、その日から母さんはベッドの上でずっと過ごした。
母さんが死に向かう日々。それはとても急速で・・・・・・。
母さんは死ぬ前、泣きじゃくる僕に優しく声をかけてくれた。
「泣くことはないのよ。私は死ぬわけじゃない。
体は死ぬけど、魂は旅に出るの。
この広い世界を見に行くのよ。父さんの見つけた、銀河の降る場所へも行けるの。だから笑って。笑って、あなたも旅に出るといいわ。銀河の降る場所に母さんはいるから・・・・・・。」
これが、最期の言葉だった。
母さんの葬儀には、村の人たちが沢山来て、沢山泣いてくれた。
葬儀が終わってすぐ、僕は荷物をまとめた。
どこかへ続く道を、ゆっくりと歩いていく。
空を見上げると、沢山の星が瞬いていて綺麗だった。
この星が、降る場所を目指して。
そこで僕は、母さんにも、もしかしたら父さんにも会えるのだろうか。
『0 Fool』
愚者
正位置は冒険、無知。
逆位置は軽率、愚考。