まず最初に見たのは、車を運転していた人の姿だった。
彼は死んでからも激しく後悔し、その強い思いが彼をこの世につなぎとめていた。
芽衣はそんな彼が不憫で仕方なかった。だから一つだけお願いをした。
誰か一人、この世の人間を助けてほしい。助けることができたなら、私はあなたを許す……と。
彼は大きく頷き、消えていった。それ以来、姿を見ていない。
「その……死後の世界はどうだった?」
小さく呟く八雲。彼の質問に芽衣は苦笑した。
「正直分かりません。それにたった2分ですよ?カロンの導きを受ける前に、この世に引き戻された身ですし……。」
冥府の河の渡し守、カロン。ギリシア神話に登場する、神に準ずる存在。
「それもそうだな……。じゃあ、何か変わったことは……?」
赤いままの瞳が芽衣へと向けられる。
八雲になら、言ってもいいかもしれない。
私たちはある意味、同類。
死者の思いが『見えてしまう』体質。
ピンと空気が張り詰める。
芽衣は口を開いた。
「八雲先輩、先輩は赤い瞳のせいで、死者が見えると言いました。私も……見えるんです。死者の魂が……。」
「………え?」
八雲の目が、これでもかというくらい、大きく開いた。
×