Asaheim2

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天気のよい午後のこと。
授業が全て終わった芽衣は、ドアをノックし遠慮がちに部室を覗く。
そこにはソファーに寝そべる八雲がいた。小沢晴香の姿はなかった……。

「……芽衣か。」

目をつぶったまま、八雲が言った。

「え……よく私が芽衣だって分かりましたね。」

「晴香ならいつも、気持ち悪い声色で「やぁ!!」……って言いながら入ってくる。今回はそれがなかった。ここに尋ねてくるのは限られた人だけだし、簡単な消去法だ。」

八雲は目を開け体を起こした。
立ったままの芽衣を目の前の椅子に座るよう促す。
素直に芽衣は従った。

「……君は正式な映画研究同好会の一員だ。それで、君には知っておいてもらたいたいことがある。」

芽衣に真剣な眼差しを向ける。
そのせいか、芽衣の背筋は自然に伸びた。コクンと頷くと、八雲の長い指が己の左目へと伸びた。
ゆっくり外されるコンタクト。
その下にある、赤い瞳。
これは完全に八雲の賭けだった。
芽衣が昔と変わっていないなら、彼女はこの瞳を……。

下に伏せていた目を、芽衣へと向けた。
ハッと息を呑む少女。彼女が八雲の瞳を見つめる間、この世界に何も音がなかった。
音が帰ってきたのは、彼女が呟いてからだった。

「綺麗……。まるで宝石みたい。」

「……怖く、ないのか?」

八雲が問うと、芽衣はにっこり笑った。

「怖いなんて……。どうしてこんな綺麗なものを、怖がる必要があるんですか?」

「この瞳のせいで、死んだ人間が見えると言ったら?」

「……それでも怖くないです。先輩が赤い瞳を持ってて、死んだ人間が見えるのは、何か意味があるんですよ。先輩じゃなきゃいけなかった理由が……。」






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