「………芽衣。」
「えっ………?」
八雲が目を開けると、いつもの部室だった。
そばではこの部室に入り浸っている小沢晴香が驚きの眼差しを向けていた。
「八雲君、私の名前を勝手に変えたいほど、私のことが嫌いだったのね。」
「……また君か。君はいつになったらここを占拠するのをやめるんだ?だいたいここは、僕のプライベート空間でもある。」
「大学を騙してここに住んでるくせに……?」
八雲は晴香の言葉には答えず、お気に入りのソファーで大きく伸びをした。
「もうっ!!」と晴香が怒りの声を上げた時、部屋にノック音が響いた。
この部屋に出入りする人間は限られている。
刑事の後藤か石井、それか八雲の噂を聞き付け、力を借りたいと思ってる人物。
ノックをする律儀さをみると、後者なようだ。
「どうぞー?」
晴香が勝手に返事をしたため、八雲の猫のような瞳が鋭さを帯びた。
小言を言う前に、小柄な少女が遠慮がちに入ってきた。
「……えっと、何かご用ですか?」
「君って人はどうしてそう勝手なんだ……。」
ガリガリと頭をかく八雲。
少女は晴香を見て尋ねた。
「あの、映画研究同好会に入りたくて来たんですけど……。」
「………へ?」
晴香のマヌケな声が室内に響いた。
本当に驚いたのだ。こんな小さな同好会に入部希望をしてくる人がいたことに。
大学という場所には、たくさんのサークルがある。ここよりも大きくて、似たようなサークルもあったはずだ。
それなのに、なぜこの少女はここを選んだのだろうか?
ちらりと八雲を見る。
彼は何も答えなかった。ただ、めんどくさそうな顔をしている。
だから晴香が八雲の代わりに言った。
*