03.狂うならば、
どうかその手を
お前を初めて抱いた日、俺はどうにかなりそうなくらい心が揺れていた。
しなやかな体に浮かび上がる黒い文字。
決して消えないその文字は、お前が病に侵されている現実を改めて突き付けてきた。
俺に触れられながら甘い声を上げるお前。
あとどれくらい生きていられるか分からない。
死という恐怖と隣合わせになりながら生きている。
以前お前は俺に言ったな。
「このまま死という恐怖を思い続けたら、狂ってしまうんじゃないか」と。
あの時の俺は、何も言えなかった。
けど、今ならお前に言えることがある。
俺はお前の柔らかな胸に顔を埋め、小さく言葉を吐き出した。
「俺だって、お前がいなくなる恐怖に怯えてる。俺も狂ってしまいそうなんだよ。」
なぁ、もし狂った時が来ても一緒にいてくれるよな?
そう尋ねたら、お前は笑って「もちろん」と答えた。
そのあとに続く彼女の言葉はこうだった。
「もし私が狂うときが来るならば、どうかその手を握っていて。私が私に戻れるように……。」
お前の目から流れる涙は、この世のどんなものより美しかった。
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