痛む腕を押さえながら本部へと戻る。
三上さんたちには無理をするなと言われた。けど……俺には戻らなくちゃいけない場所があるんだ。
両親を失い、そして再び、親しい人を失った彼女。
彼を失ったその日から、あいつは暗闇で怯えるようになった。
戻らなきゃ……。芽衣が待つあの家へ……。
「……おい、芽衣。また電気つけたまま寝てんのか?」
ノックをしても返事がなかったため、俺はそのまま芽衣の部屋のドアを開けた。
綺麗に整理された部屋。
たくさんのぬいぐるみが乗ったベッドで、小柄な少女は丸くなって眠っていた。
ベッドの上には仕事の書類が広げられている。
芽衣のそばに腰を下ろす。俺の重みで、少しベッドが沈んだ。
「電気くらい、消せよな……って言っても無理か。お前は暗闇が嫌いだもんな。」
そっと彼女の頭に触れる。
あの人が死に、俺も生死をさまよっていた時、芽衣はこの家で暗闇に包まれていた。5年前の話。
両親を失ったばっかりだった彼女は、また一人になる恐怖を味わっていたのだ。
夜が明け、この家に帰ってきた時、芽衣は瞳に涙を溜めて俺に飛びついてきた。
何度も何度も、「お父さんとお母さんのところに行ったかと思った」と呟く芽衣。
それから彼女は、あの人が死んだことを知り……暗闇が嫌いになった。
暗闇が、今度は笑ちゃんを連れてっちゃうんじゃないかって、すごく怖くなる。
以前暗闇が嫌いな理由を尋ねた時、芽衣は曖昧に笑ってそう答えた。
「暗闇が怖いなら、俺がちゃんといてやるから。」
小さく呟いて、俺は芽衣の部屋の電気を消すと、彼女のベッドに横になった。
細い体をしっかりと包み込む。
モゾモゾと芽衣が動き、俺の胸へもぐりこんでくる。
ここが彼女の安心できる場所。それは5年前から変わっていない。
「これなら暗闇も怖くないだろ?」
返事はなかったが、芽衣の顔がすり寄ってくる。
こうするたび、俺はどんなことがあっても死ねないと感じる。
芽衣から俺までいなくなったら……。
そう考えただけで、俺は生きようと思うんだ。
暗闇の中、芽衣の温度を確かめながら、俺は目を閉じるのだった。
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