夢@Asaheim

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「すみません。やっぱり寒かったですよね。」

上から降ってくる声と同時に、ふわりと何かが肩にかかる。
声のするほうを見れば、無表情の宮田が立っていた。

「宮田先生?」

「昨日は頼んだ資料をありがとうございました。
見やすく整理されていたので助かりました。
あと……そのカーディガンも、ありがとうございます。」

宮田は一度そこで言葉を切った。
彼はじっと芽衣を見つめている。
「あの……」と声を発したのと同時に、宮田の声がかぶった。

「芽衣さん、実は今日の午後は休診なんです。
それであなたに、午後から手伝っていただきたいことがあるのですが……。」

「あ、はい。分かりました。」

「では、昼休みが終わったら院長室に来てください。」

宮田はそれだけ言うと、ナースステーションをあとにした。
いそいそとカーディガンに袖を通す芽衣は、ふと、
宮田の言った言葉に違和感を覚える。
その違和感が何なのか分からないままパソコンの画面を見ると、
さっきの年配の看護士が声をかけてきた。

「芽衣さん、宮田先生、初めてあなたのこと、名前で呼んだわね。
宮田先生、美奈さん以外は名前で呼ばないのよ。
それに美奈さんだって、宮田先生に名前を呼ばれるまで一年はかかったのに……。
どうしちゃったのかしらねぇ、宮田先生……。」

そう言いながら彼女は仕事に戻っていく。
芽衣は遠くなる宮田の背中に視線をうつした。

(そっか。あの違和感の正体は、宮田先生が私の名前を呼んだことだったのか。)

着ているカーディガンから、かすかに宮田の匂いがする気がした。
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