夢@Asaheim

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place where one can be oneself 03


芽衣に促されて部屋に入る。
シンジはリビングにあるソファーに腰をおろした。
すぐに芽衣が冷たい麦茶を入れて、シンジの前に置く。
芽衣も自分のコップを持ち、彼の隣へと座った。

「あの……黒川、僕に話したいことって何?」

しばらく沈黙の時間が続いたので、シンジはためらいがちにも口を開いた。
ゴクンと麦茶を飲んだ芽衣が、ゆっくりと言った。

「うん。あのね、私エヴァには乗れないって碇君に言ったよね?
実は私……病気を持ってるの。」

「……え?」

シンジはすぐに、隣に座る少女を見た。
長い指がコップをぎゅっと握っている。
ポツリとシンジが聞き返す。

「びょう……き……って?」

「進行性の病気。まだ、治療法も見つかってない難病。
唯一分かってることは、ネルフが処方してくれる薬が、
症状を抑えて進行を遅らせてくれることだけ……。」

そのまま芽衣が瞳を伏せた。シンジも自分のグラスに視線を移して尋ねる。
「治らないの?」と……。
彼女は首を縦に振った。たった一度だけ。

「だからエヴァには乗れないの。
エヴァに乗ってシンクロすると、症状が出る確率が上がって危険なんだって……。」

芽衣の言葉を最後に、部屋はシンと静まり返った。
シンジのグラスの側面を、水滴が流れていく。
ミサトが言った、彼女と話をしてきたら?っていうのは、
このことを聞かせるためだったのかもしれないと、シンジは思った。

芽衣は病気……。進行性の、絶対治らない……。

ネルフが出してくれる薬だけが彼女を救ってくれている。

「ねぇ碇君、だから私は、ネルフから離れられないの。小さい時から、ずっと……。」

その言葉がどうしても儚く聞こえてしまうのは気のせいだろうか……?

「黒川……。ねぇ、黒川ってずっと前からネルフにいるの?友達とか……いるの?」

「うん。小さい時からずっとネルフいるよ。
友達はあんまりいない……。病気のせいで、学校にも行けない時が多いから。
でもね、寂しくないよ。レイちゃんが……私の友達になってくれたから!!!
あと、碇君も!!!」

先程とは違い、嬉しそうな笑顔を浮かべる芽衣。

「えっ?綾波を知ってるの?」

「もちろん!!!碇君のことは知らなかったけど、
レイちゃんはネルフにいるのが長いから……。」

シンジには意外だった。
あの綾波レイが、芽衣と友達になったことが……。
今度、レイに芽衣のことを聞いてみようと彼は思う。
しばらく話をしていると、シンジの携帯に着信が入る。アスカからだった。
芽衣に断って電話に出ると、キーンとするほどの怒鳴り声が響いた。

『バカシンジっ!!!あんた今どこにいんのよっ!!!
ちょっと出かけるとか言って、全然ちょっとじゃないじゃないっ!!!
あんたに頼みたいことがあるから、今すぐ帰ってきなさいよっ!!!』

アスカは一方的にしゃべり、シンジに弁解をさせる暇もなく電話を切った。
苦笑気味で携帯を見つめていると、横で芽衣が笑う。

「シンジ君も大変ね……。」

「ううん、いいんだ。慣れてるから。それよりも黒川、名前………」

彼はすぐに芽衣が自分の名前を呼んだことに気付いた。
芽衣は少し顔を赤らめて、「こっちのほうが友達らしいし……」と小さく呟く。
穏やかな気持ちになったシンジも呟いた。

「じゃあ僕も、黒川のこと、芽衣って呼ぶよ。」

そう言えば、芽衣は嬉しそうな顔をして頷いた。
二人で玄関まで行き、シンジは靴をはく。
プシュッとドアが開いた。
玄関を出る前にシンジは彼女を振り返る。

「あの、芽衣。今日は話しにくいことを話してくれてありがとう。」

「ううん、いいの。シンジ君には知ってて欲しかったから……。
私のほうこそありがとう。シンジ君の手料理、美味しくいただく。」

そこで芽衣が笑ったので、シンジも笑う。
おやすみと言って、シンジは芽衣の家を出た。
芽衣は小さく手を振っていた。
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