夢@Asaheim
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夕食の片付けをしながら、シンジはぼんやり黒川のことを考えていた。
シンジの後ろでは、ダイニングテーブルでミサトがビールを飲んでいる。
「あの、ミサトさん。黒川芽衣って子、知ってますか?」
流れる水の音と一緒に、ミサトの声が混じった。
「ん?シンジ君が言ってるのは、芽衣ちゃんのこと?知ってるわよぉー。
彼女は小さい頃からずーっとネルフにいるから。」
「えっ……?小さい頃からずっと?」
シンジの瞳が持ち上がる。ミサトは彼を振り返って言った。
「ええ、そうよ。もしかしてシンジ君、芽衣ちゃんに会ったの?」
「あ、はい。たまたま………ですけど。
部外者だと思って声をかけたら、ネルフのお手伝いさんだって言われて……」
シンジは芽衣と出会った時のことを正直に話した。
ミサトは少なくなったビールが入ってる缶をくるくる回す。
「お手伝いさん………か。」
彼の話を聞きながら、ほおずえをついてミサトが呟く。
シンジは彼女の呟きが少し気になった。
「あの、お手伝いさん……じゃないんですか?黒川は。」
「あ、ううん。そうね、お手伝いさんっていうのは間違ってないわ。
ネルフの雑務を手伝ってもらってるし……。ただちょっと……ね。
そうだ!!!せっかくだから芽衣ちゃんのところに行って、話でもしてきたら?
余った夕飯持って。彼女喜ぶわよー?」
にやりとミサトは笑う。
突然の言葉に驚いて、シンジは皿を落としそうになった。
「そんな急にっ!?だいたい、黒川の家なんて知らな………」
「大丈夫。この階の下に住んでるから。
部屋の番号メモしとくから、それ、頼んだわよ。私は風呂に入るわ。」
ミサトはそう言って余った夕飯のおかずを指さし、部屋の番号をメモしてシンジに渡すと、バスルームへ行ってしまった。
シンジはぼうっと手渡されたメモを見て、困った顔をした。
「こんなに近くに住んでたんだ、黒川。知らなかったな……。」
そう呟いた時にはすでに、シンジはエプロンに手をかけていた。
夕飯の残りを手に持ち、アスカにちょっと出かけると声をかけて外へと出た。
下の階に降り、メモされた部屋へ行くと、確かに『黒川』という名前が入っている。
高鳴る心臓を気にしないようにして、チャイムを押した。
ドタドタという音がして、彼女がドアを開けた。
「はい………え?碇君!?」
「こ、こんばんは。黒川。あのっ……ミサトさんが黒川の部屋、教えてくれて。
突然ごめん!!!これ、よかったらどうぞ……。」
少し赤くなりながらも、シンジがおかずの入った皿を差し出すと、芽衣は驚きつつ笑った。
「うわぁ!!!美味しそう!!!これ、碇君が作ったの?ありがとう。
まだご飯食べてないから、美味しくいただくね。」
「あ、まだ晩御飯、食べてなかったんだ。じゃ、僕帰るよ。
ホントはミサトさんが、黒川と話してこいって言ってたんだけど、邪魔になったら悪いから……。」
彼の呟きに、芽衣は何かに気付いた顔をする。
皿を持ったまま、芽衣は呟いた。
「ミサトさんが……?あぁ、そっか。そういうことか……。」
芽衣は1人で納得すると、帰ろうとするシンジの腕をとって引き止めた。
「ううん、大丈夫。私もね、碇君に話しておきたいことがあるの。」
「えっ?」
シンジの腕を掴む芽衣の白い手。まるで日焼けとは無縁のよう。
シンジはその手を見たあと、芽衣の顔に視線を移す。
芽衣は会った時と同じ笑顔をしていた。だが、なんとなく表情が固い気がした。
(気のせい………だよね?)
シンジも同じように、芽衣に優しく微笑み返した。
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