夢@Asaheim
□先輩との出会い
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「曰野先輩……。」
「あれ?志水君、今帰りなんだ。」
僕の目の前にいる先輩は、満面の笑みを浮かべて僕を見ている。
手にはウ゛ァイオリンのケースが握られていたので、先輩は今日も練習していたのかと僕は思った。
「先輩、今日も練習してたんですね。」
「うん。月森君みたいに、上手くなりたいからね。」
先輩がはにかんだような表情を見せる。
曰野先輩の演奏は、技術的にはまだまだだけど、音は澄んでいて綺麗だと僕は思う。
いつまでも聞いていたい音楽。それが曰野先輩の音楽だった。
その時、近くで曰野先輩の名前を呼ぶ声がする。僕たち二人は声のするほうをみる。
曰野先輩が突然、「あっ!!!」と小さく叫んだ。
「香穂子ちゃん、練習室に楽譜忘れてたよ。金澤先生に渡すよう頼まれたんだ。
次のアンサンブルで使う大事な楽譜じゃないの?」
それは、曰野先輩とは違った暖かさを持った人だった。横にいた先輩が舌を出して楽譜を受けとる。
「ごめんね芽衣ちゃん。」
「ううん、いいの。すぐに渡せてよかった。それじゃあ、私帰るね。」
先輩の知り合いは、そう言い残して足早に去っていく。
その姿を見て、今度は僕が小さく声を上げた。
「……楽器?」
先輩の知り合いの人の背中で揺れる楽器ケース。大きさからしてトランペットかなと思った。
すると、横にいた曰野先輩が驚いたように目を丸くさせていた。