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□11 Justice(正義)
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いつも天から泉を通して下界を見ている。

私は人間の善と悪のバランスを保つ存在。

大神ゼウスがプロメテウスに人間の女を作らせた。
その女はパンドラと名付けられ、絶対に開けてはならない箱を開けてしまった。
そして私はここに生まれ出る。
善と悪のバランスを、監視するため。

なんて愚かな人間。
パンドラの開けた箱からは、争いの神エリスや夜の女神ニュクスの子供たち、沢山の災いや悪が飛び出した。
唯一残ったのは希望。

それから私は、神に善と悪のバランスを計る天秤を貰いうけ、常に人間の善と悪のバランスを保っている。
悪なる人間が増えれば、彼らに死をもたらし、善なる人間が増えれば、同じように彼らにも死を与えた。

しかし、私は最近ふと思う。
愚かな人間どもは、エリスの子供の囁きで、簡単に争いを始め、罪もない人間の命を奪っていく。
善人が悪人になってゆく。
そして、争いが終われば、悪人は善人へと姿を変える。

もしも私が、善と悪のバランスを保たなかったら、人間はどうなるのだろう。

善人が増え、人間の世界は繁栄をきわめるのだろうか。
悪人が増え、互いに殺しあい、いつしか滅んでしまうのだろうか。

私はそっと、天秤を泉に落とした。
これからはお前たちの心が天秤だ。
人間どもよ、今度はその心でお前たち自身の善と悪のバランスを計るがよい。
私はここからお前たちを見ていよう。

天から天秤が落ちていく。
天秤は途中で無数に砕け、人間の心にかけらが刺さっていった。

善と悪のバランスを監視する天使はそれを見届けると、静かに泉をあとにした。




『11 Justice』

正義

正位置はバランス、正当。
逆位置は偏見、不正。

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