夢@Asaheim

□place where one can be oneself 01
1ページ/3ページ


place where one can be oneself 01

シンジはその日、ネルフ本部の椅子に座って音楽を聞いていた。
やることもないが、彼女……葛城ミサトが本部にいろと言うから仕方なく……。
カチッとテープが止まり、彼はイヤホンを外した。
と、その時、目の前を少女が通りすぎて行く。
レイでもアスカでもない。見たことがない子だった。

(誰……だろう?)

年齢はシンジと同じくらい。
でも彼女が着ている制服は、第壱のものではなかった。
シンジは彼女に呼ばれるようにして、無意識のうちに立ち上がり声を発していた。

「あ、あのっ!!!」

少女が止まって彼を振り返る。
長い黒の髪がさらりと流れた。
切れ長の目が驚いたように開いている。

「はい、何でしょう?」

トーンの高い声が疑問の言葉を紡いだ。
ドキンとシンジの心臓が跳ねた気がする。
少女は小首をかしげてシンジの言葉を待った。
時間が流れていく。
声をかけたものの、何て言うか考えていなかった彼は、必死に言葉をひねり出す。
少しためらいがちにシンジは言った。

「あの、その……ここは関係者以外立ち入り禁止で……。
もしミサトさんに見つかったら、厄介なことになるというか……」

もごもごと口を動かすシンジを見たあと、目の前の少女は突然にこっと笑う。
シンジが戸惑っていると、今度は少女が口を開いた。

「あ、ごめんね。私部外者じゃないんだ。
ここで働いてるの。」

「えっ!?君が……?
もしかして、君もエヴァに乗るの?」

彼女の言葉にシンジは驚きの声をあげた。
働いているというフレーズに、彼女もエヴァのパイロット?という疑問が浮かぶ。
でもエヴァは今のところ3機しかない。
それにバチカン条約とかで2号機は封印されてしまった。
考えるシンジをよそに、クスクスと彼女が笑う。

「残念ながら、私はエヴァのパイロットじゃないの。
ネルフ本部のお手伝いさんなんだ。
あ、自己紹介、まだだよね?私は黒川芽衣。」

スッ……と白い手が差し出される。
シンジはその手を握る。
黒川の言葉に続いて、シンジも自己紹介した。

「あ……僕は碇シンジ。初号機のパイロットです。」

そう言葉を告げると、芽衣は柔らかく笑って呟いた。
「知ってるよ」と一言だけ。

「え?僕を知ってるの?」

「うん。だってシンジ君は碇司令の子供なんでしょ?
エヴァもすぐ動かしちゃったっていう話も聞いた。すごいね。」

太陽みたいに輝く笑顔を向けられ、シンジは瞳を落とした。

すごくなんかない。

一瞬そういう言葉が浮かび、拳を握る。
表情を曇らせたシンジを見て、芽衣は眉を下げた。
彼には、今の言葉は禁句だったのかもしれない。

「……ごめん。今の言葉、言わないほうがよかったよね。」

芽衣は静かに謝る。
慌ててシンジが拳をほどいて芽衣に向き直る。

「あ、違うんだ!!!そういうんじゃなくって……」

「芽衣。」

申し訳なさそうな顔をする芽衣に、シンジが言葉をかけた時だった。
彼の背中で低い声がする。
振り返れば厳しい顔をした碇ゲンドウが立っていた。

「父さん?」

シンジが小さく言うが、ゲンドウは表情を変えなかった。
一瞬だけチラリと息子を見たあと、すぐに芽衣へ視線を戻す。

「早くしろ。今からお前にやってもらうことがある。」

「はい、分かりました。それじゃあね、碇君。」

芽衣はさらりと流れる髪を揺らしながらゲンドウへと歩いていく。
シンジは何も言えなかった。
ただじっと、芽衣とゲンドウの後ろ姿を見ているだけだった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ