ITO
□5-1、引き寄せる縁
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2.
若菜はひらひらのレースをいじりながら、小さな声で呟いた。
「ど、どうかな? ちょっと今日は、たまにはこんな格好もいいかなって思って……さ」
大地はしばらく黙って若菜を見つめ、一歩足を踏み出した。
そして、若菜の腕を取った。
「ちょ……大地っ?」
「これ、借りていいか?」
声をひっくり返す若菜の腕を見つめたまま、大地は尋ねた。若菜の腕にあったのは、うっすらとラメの入ったシュシュだった。
「え? いいけど、どうするんだ?」
承諾を得た大地は、若菜の腕からシュシュをとり、その手を若菜の髪に伸ばした。
そして、要領の良い手つきで若菜の髪を編みこんでいく。最後にシュシュでまとめ、大地はにっと笑った。
「これで、百二十点ってとこだな」
「え……」
びっくりした顔で、若菜は編みこみに手を触れる。
大地はポケットに片手を突っ込み、空いたもう片方の手で若菜の頭を軽くぽんぽんっと叩く。
「いいんじゃね? おまえ、そういう格好も似合ってるぞ」
若菜はばっと俯き、「あ……ありがと」と、なんとか聞き取れるくらいの声で答えた。
こうやって褒められることが少ないのだろうか。照れてんだな、と大地はひとり納得していた。そして、同時に懐かしくなる。昔を――昔の自分を、思い出してしまう。
「大地?」
少々赤い顔で不思議そうに若菜が見上げてくる。
感傷に浸っていた自分に苦笑しながら、大地は映画館の中を指差した。
「わりぃ、何でもねぇ。それよりもう中に入ってようぜ。アホの名護と静は、なんか用事で今日来るのは無理になったらしいから」
「えっ! 無理!?」
飛び上がって驚く若菜に、頷いて応える。
顔を渋くして、大地は首の後ろを掻いた。
「マジで意味が分からん。あれほど人には来いっつっといて、自分はドタキャンって何なんだ、全く……」
明日大学で会ったらとりあえずボコる、とぼやきながら大地は一人歩き出す。しかし、隣に若菜がいないのに気づいて足を止めた。
若菜は先ほどの場所に縫いつけられたように立ち尽くしていた。放心しているといっても過言じゃない。
仕方なく大地は、若菜の元に戻ってその顔を覗き込んだ。
「なんだ? 俺と二人じゃ不満だってか?」
わざと凄んで見せると、若菜は首が振り切れるんじゃないかという勢いで否定した。そして、やや赤い顔でにしっと女らしからぬ笑みを浮かべる。
「橘の三強の一人とご一緒できて光栄ですっ!」
「だろ?」
大地も似た笑みを返して、若菜の首に腕を回した。その途端「うわっ、ちょ、大地!」と暴れ出す若菜を無視して、大地は映画にはポップコーンがいるか、と売店の方向に足を向けた。