無気力な将軍と韋駄天。
□0、宣誓
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ふうう、と少女は大きく深呼吸する。これが大事。
顔を上げると、好奇に満ちた生徒達の視線とかち合った。彼らは、興味深々といった様子で少女を見ている。
その中に少女は――ビートの目を見つけた。
彼女は足を組んで、『ふふん、あんたが大恥かくのを見届けてやるわ』という顔をしている。けれど少女は、彼女を無視して正面に向き直った。
ざわつく音楽室。針のように突き刺さる幾つもの視線に、少女の足が震える。
――ううん、これは武者震い。こいつらの視線なんか、恐るるに足りない。そうだわ。だってあいつとの練習じゃ、虫扱いなんて日常茶飯事、罵倒された数なんて両手じゃ足りないもの。だから、大丈夫。怖くない。
そう自分に言い聞かせて、真一文字に唇を結ぶ。
音楽が流れ始める。川のせせらぎにも似た音が、空気を凜、と引き締めた。その伴奏を聞きながら、少女は目を閉じて心の中で呟く。
――忘れないよ、ショーグン。あんたに教えてもらったこと。今から私は、私の為じゃなく、ビートを見返す為でもなく、あんたの耳に届かせる為に、歌うから。
体中に走る忌々しい緊張の波を振り払って、少女は目を開けた。糸を紡ぐかの如く繊細なリズムで、歌が始まる。
――だから。最後まで聞き届けてよ、ショーグン。