トラブルメーカーの受難
□3、蒸篭担ぎが示すフラグ。
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1.
「おいおい、しっかりしろよ」
「へ?」
呆れたような呟きに思わず目を開くと、私の肩越しに一本の腕が出て来て――私の手の上から、ハンドルを握った。
右に大きく傾いていたハンドルが、強い力で戻される。
「ほれ、ペダルを漕げ」
すっかり気が動転していた私は後ろから聞こえる声に素直に従ってしまう。それが良かったのか、転倒しそうだった車体は安定し、無事にまた道を走り出した。
「た、助かった……」
「だな」
ぽつりと洩らした独り言に応えが返されて、私は体を震わせた。そういえば、さっきから後ろにいるのは……。
「なっ、なんで後ろにあんたが乗ってんの?!」
あまりの驚愕に顎が落ちる。いったい、いつの間に!
後ろの荷台に図々しくも涼しい顔をして乗っている変態に、私は怒鳴りつける。
「なんなのあんたは! 人のお弁当を奪っておきながら、私の許可なく後ろに乗ってるし!」
「いや、待てって言っても止まらねぇから」
「言い訳になってない!」
「だってほれ、お弁当。返してねぇし」
言って、変態は私のお弁当を持ち出してくる。私は片手でそれをひったくるように取り返すと、自転車の前かごに突っ込んだ。ってか軽っ!! 全部食べやがったのか!
「はいはい、無事お弁当は受け取ったから。降りろ変態!!」
この際こいつと離れられるのならお弁当強奪の件はきれいさっぱり水に流してやっていい。私ってなんて優しいの! とりあえず早く降りろやゴルァ! と私は後ろに向かって頭を振る。
「いてっ! 頭突きはやめろ! つーか時計を見てみろ! 今何時だと思ってる」
私は一時攻撃の手、いや頭を止めて腕時計を見る。
「……八時だけど」
ちなみに新担任からこの時間には来るようにと言われているのは、八時二十分だ。ここから自転車で行くなら余裕で間に合う。徒歩ではきついかもしれないが。