不思議の国のアリス様っ!?

□第1章−3、疫病神はすぐ側にっ!?
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1.

 少年は、ひどく飢えていた。――それはもう狼のように。

 ぎらぎらと光る目、痩けた頬、やけに発達した黄色い犬歯。衣服はこの寒さには厳しすぎるボロボロの布を体に巻き付けただけという簡素なモノで、その出で立ちは原生人そのままである。伸ばしっぱなしの灰色の髪が、よりその印象を強くする。

 大きく開いた胸元から見える鎖骨は異常なほど盛り上がり、手にも足にも肉らしい肉が付いていなかった。骨と皮だけといった状態である。育ち盛りの年頃であろう少年にしては、あまりにも悲惨な姿だ。

 けれど、少年に今の自分の姿を憂う心の余裕はない。少年はただただ腹が減っていて、自分の食欲を満足させることだけしか考えていなかった。

 思えば少年は、生まれたときからずっと空腹に耐える日々を過ごしていたような気がする。

 もし誰かに「何のために生きているのだ」と聞かれたならば、少年は迷うことなく「空腹を満たすため」と答えるだろう。

 生きて行くには真実、理由などはいらないのかもしれないが。それ程、少年は飢えていたのだ。

 そして――この時。少年は、空腹を満たすためにあることを実行しようとしていた。

 あぁ……腹減った。

 今は獲物を目の前にしているから息を潜めているけれど、ともすれば腹を減らした獰猛な犬のようにハッハッと舌を出しそうになる。

 ひんやりと露に濡れた葉の間に見える二人の人間――滅多にいない上等な獲物だ。あの人間達を連れていけば、最近ロクな獲物を連れてこないとイライラしている頭領の機嫌を直して、久しぶりにメシをくれるかもしれない。

 葉の間に見える二人の人間は、見ているこちらの目が痛くなるほど髪の色が濃い。自分の、シラミで汚れたくしゃくしゃの灰色の髪とは比べようもないほど。――あいつら、頭領達が言ってた『キゾク』だ。

 少年の表情に乏しい顔が、にたりと笑う。少年は、手に持っていた大型のナイフを強く握りしめる。
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