ITO
□5-2、引き寄せる縁
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1.
何度も言うが、大地には持久力はない。
天は大地に二物を与えはしたが、持久力は授けなかったのだ。
それでも大地は、必死にあの影を追いかけた。
夏で日が落ちるのは遅いとはいえ、さすがにもう薄闇が街を覆って、繁華街を一歩抜けると灯りもほとんどない。
いくらあの目立つ白いワンピースを着ているからといって、この人ごみの中では見失ってしまいそうだ。
それでも目を離すものかと、大地は歯を食いしばる。
人混みを縫うように抜けて、大地は荒い息を吐きながら、あの影が入っていった場所に足を向けた。
よくよく、こいつと二人になる場所は公園らしい。
鬱蒼と生い茂る木々に囲まれた小さな公園の中央、そう大きくはないジャングルジムの天辺に、あの影は、いた。
その細い身体を四方体に組まれた鉄の棒に預け、絶妙なバランスで腰掛けているために、落ちやしないかと大地は少々的外れなことを考えてしまう。
大地がいることに気づいているのかいないのか、それはわからないが、影は一心に空を見つめていた。
大地はその場で少し息を整えて、ジャングルジムに近づいていく。
それでも、影は動かない。空から視線を外さない。
その視線のあまりの熱心さに、何かあるのか? と大地も空を見るが、あるのは藍色に染め上げられた空と、淡く光る星だけだ。
「――私に、何か用?」
突如かけられた声に、視線を影に戻すと、影――少女がいつの間にか大地を見ていた。
日が落ちて、もうその用途を果たさない筈の日傘の元で、二つの瞳は無表情に自分を映している。
大地は拳を握り締めて、一声を放った。
「何の用じゃねぇよ。お前――一体何なんだ」
ジッ
時間が時間だからか、公園内の電灯に光が灯る。
人工の光が、少女の相貌を照らし出す。
少女は無表情を崩さないまま、首を少し傾げた。
「何、って?」
その緊張感の欠片もない反応に、大地は堪忍袋の緒が切れる音を聞いた。
地面を苛立ちのままに蹴りつけて、少女をねめつける。
「お前は、一体何者なんだよっ! お前と会ってから、『呪われてる』って言われてから、変なことばっかり起きてるんだ! お前がその原因なのか? お前は、何か知ってるのか?」
幾つもの疑問を一斉に畳みかけたせいで、大地は息を切らす。
そんな大地を静かに眺め、少女は言った。
「まずは落ち着いたら? そんな興奮した状態だと、疲れるでしょう」
なだめるように言われて、大地は再びカチンときた。
自分よりも明らかに年下の癖して、何を偉そうに! 大体俺を見下ろすな!
大地は心の中で思うさま少女を罵倒して、ジャングルジムの棒に手をかける。そしてするすると少女が腰掛ける位置まで登り、その眼前に立った。
「あのなぁ、お前っ!」
そう言って少女に掴みかかろうとしたら、強い突風が大地に向かって吹きつけた。
「あ」
ぽつり、漏れる少女の声。
足場が悪かったせいか、大地の身体がバランスを崩して後ろに傾いた。
視界に映るものが、大地を冷静に観察している少女の顔から、暗い夜空へと変わる。