ITO
□5-1、引き寄せる縁
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大地は人ごみの中をゆっくり歩いていた。その足は確実にある目的地に向かっていたが、大地の頭の中にあったのはあくまでも、名護の占いについてだった。
――また会うことになるだろうよ。運命なんてもんが、もしあるなら、な。
奴が最後に読み解いたカード、『運命の輪』。それが指し示す存在。
俺を、助けてくれるという存在。
流れる長い黒髪と目に眩しい白いワンピースが脳裏で翻り、それを打ち消すように大地は自分の頭を軽くこづく。ダメだ、あの占いの後から、そればかりを考えてしまう。
相も変わらず太陽はその強い光を放ち、白く輝いている。
その光に目を細めながら、大地は時計で時間を確認した。
今日は土曜日。若菜との約束の日だ。大地はその待ち合わせ場所を目指している途中だった。
――いいか、明日は絶対に来いよぉ?
――約束を破ったら……わかっているな?
と、占いの後恐ろしい顔で名護と静に迫られ、何度も頷いた大地である。大体、なぜ自分が約束をすっぽかすかのような言い方をされなければならないのか。と少々腹が立ったが、二人はなぜか大地以上に「若菜との映画の約束」に執心していた。
二人で顔つき合わせてコソコソやっていたが、まるで意味がわからない。のけ者にされた気分で、大地は非常に機嫌が悪かった。
が、この映画は大地も前々からとても見たかったのだ。それを思い出し、顔をほんの僅か緩めながら、映画館前の横断歩道を渡る。
映画館前で待ち合わせという約束だが、案の定人でごった返していた。それにげんなりしながら、大地は待ち人の姿を探す。
まぁ、まだ待ち合わせ時間前だから、来ていないということもありうるが。
「……やめた」
しばらく目をこらして人ごみを見つめていた大地だが、それらしき人間が見当たらなかったため、映画館の受付付近の支柱側で待つことにした。
ここなら目立ちやすく、また奴らが映画館に入ろうとしていたなら、見落とすことも無いだろう。
ポケットから携帯を取り出し、メールが入っていないかを確認する。と、携帯を開いたと同時に新着メールを知らせるバイブが鳴った。
メールの相手は名護だった。
「なんだ、遅刻か?」
独り言を言いながら、届いたメールを開く。
【よお大地! せっかくの若菜っちの誘いだが、オレも静も急用が入っちまって行けそうにねぇんだ。悪いが、若菜っちに謝っといてくれ。じゃあな(笑)】
携帯を持った手が小刻みに震え出す。
「な……なにが【じゃあな(笑)】だ、名護のボケェッ!」
あれほど人に「絶対来い!」とか言っといて自分はドタキャンとはどういう了見だ!
手に力を込めすぎて、携帯のフレームがミシミシと軋む。
もうホント許さねぇ。マジで縁切る。最近覚えたラリアット決めて縁切るっ!
あまりの憤怒の表情に周囲がドン引きしている中、一人、大地に恐る恐る近づく人間がいた。
「だ……大地、どうしたんだ?」
よく聞き知った声を聞いて、大地は携帯の液晶から目を上げる。
目の前に立っていたのは、待ち合わせ相手の若菜だった。
しかし、その姿を目にした大地は思わず目を丸くした。
「若菜……おまえ」
じっと見つめる大地に、若菜は照れくさそうにしながらうつむく。
「へ……変か?」
「いや……」
首を振って否定し、大地は若菜の姿を頭の天辺からつま先まで見下ろす。
ワックスを使ってふわりとまとめられた髪。しつこ過ぎない白いレースのトップスに、小花のネックレスがアクセントとなっており、これだけなら完璧にフェミニンな格好であるが、それもデニムのスカートで甘くなりすぎるのを押さえている。
女の格好にはある事情で詳しくなってしまった大地でも、合格点を出していい程の格好だ。
しかし大地が驚いたのは、そんなことでなく、若菜がスカートをはいているという事実だ。
「おまえがスカートはいてんの初めて見たな……」
大学に入り若菜と出会ってから初めて見たのだから、とても珍しい姿と言える。