ITO
□4-1、背負う重荷
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「もう俺、駄目かもしれない……」
ぽつりと呟いた大地の表情は、枯れ果てた老人のような哀愁を漂わせていた。
それを隣で見ていた名護は、大きなため息をつく。
「だぁーかぁーらぁー、言ったろ? しばらく大人しくしてろってな。それを聞かねーからそういう目に遭うんだよ」
購買で買ったカレーパンにかぶりつきながら、「つか、シケた顔されてっと飯まずいからどっか行ってくんない?」とこれでもかと追い討ちをかけてくる。
さらに、その隣で弁当をつついていた静も「ひどい顔だな」と相槌を打つ。
いつもの休憩時間、以前の教訓を生かして人目につきにくい校舎裏のベンチで昼食を取ることにした三人。それでも念には念をとタイマーまでセットする入念さである。
その昼食中に、大地はこの約一週間にあった出来事を全て二人に吐露していた。
そう、それは語るも地獄、聞くも地獄の出来事だった。
あの鉢植えが頭上から落下してくるというショッキングな一件から、しかし大地はこれを偶然が引き起こしたことと強引に思い込み、『仕事』を続けていた。言わずもがな、性悪女どもとのお出かけ、である。
ところが。その『お出かけ』において大地はまさしく、大怪我ものの目に遭いかけたのだ。
食事中にコーヒーカップを持った店員が大地めがけて転ぶ、トラック上のワイヤーで固定されていた鉄パイプが落ちてくるなど、他にも様々な洒落にならない出来事が大地の身に降りかかった。
結局、これら全て間一髪のところで避けることが出来たのだが。
これだけのことをわずか一週間の内に経験し、さすがの大地もあの少女の言葉が真実味を持ってくるのを感じていた。
「マジで俺は……呪われてんのかな」
ふ……ふ……と、無意味な笑いが自然と大地の顔に浮かぶ。
それを見た名護と静が、これは重症だ、と顔を見合わせる。
半死人の様相を呈している大地を目の前にして、名護は再び嫌みったらしいため息をつきながら、腰のポーチから何かを取り出した。
「……なんだ、それ」
これまで死にかけだった大地の意識が、つ、と名護の手の中にあるもの引き寄せられる。
名護はそれを木製のテーブルの上に置いた。
置かれたのは、緑の蔓が描かれたカードの束。
「……これって」
「そ、オレが占いに使ってる――タロットカードだ」
いつも名護がカードを切っているのは知っているが、こんなにじっくりと見るのは初めてだ。大体、名護が真剣に占う場面に立ち会ったことが大地は無い。
「落ち込んでる大地クンのために、ひとつおまえの現状、占ってやるよ」
そう言って、名護がウィンクした。