ITO

□3-2、影との再会
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「聞いてない」

 つんと顔を背けて、大地は素っ気なく答えた。

「そんなあー! 大地くん冷たいぃ。あたし、すっごく面白い話してたのに……」

「自分にとっては、だろ。きっと聞いてたとしても面白くなかっただろうな」 

 ああ、本当にくだらない。早く帰りたい。しかし、これは大地の『仕事』だ。

 隣で延々と愚痴を言う女を放置して、大地は重い溜息をついた。

 そのときだった。

「……ん?」

 何かに足を引っ張られたような気がして、大地は足を止める。

 後ろを振り返るが、もちろんそこには歩みを阻むものは何も無い。ガムでも踏んだかと足の裏を見るがガムなんて付いていない。

「大地くん、どうしたの?」

 歩みを止めた大地に、怪訝そうに女が問いかける。

 それには答えず、大地は足を前に動かそうとした。が、足を上げることは出来ても、前に踏み出すことは出来ない。まるで何かに足を絡め取られているようだ。

 たとえば、見えない糸が足に絡み付いてでもいるような。

 大地は眉を寄せて、もう一度足を動かそうと試みた。その次の瞬間――、

 ガラス細工を思いっきり地面に叩きつけたような大きな音が響き渡った。

 至近距離で聞こえた音に大地と女は同時に飛び上がる。

「な……っ」

「え……」

 激しく飛び散った何かが大地の服の袖を掠めて、袖が破れる。

 宙に舞う何かは、重力に従い軽い音を立てて落ちた。

 唖然として前を見ると、砕け散った植木鉢の破片と、土に塗れてぐしゃぐしゃになった花が、大地が進もうとしていたまさにその場所に広がっていた。
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