ITO
□2‐1、奇妙な符合
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「――だぁれが、《呪われてるわ》だ!! 冗談は休み休み言えってんだ」
昼前のカフェテラス。
午前中の授業のためまだ生徒もまばらな中で、こんっと紙コップを安い造りのテーブルに叩きつけて、大地はわめき散らした。
その顔は閻魔王もかくやという形相を成し、見るもの全ての目を惹きつけて離さない鮮烈な容姿であることも手伝って、尋常でないほど剣呑なオーラを放っていた。
だが。
「いーや、呪われてるな」
「呪われてるだろう」
そんな怒りの主に、悠然たる態度で接する強者が二人。
一人は、茶髪の毛先だけをキャラメル色に染めるという変わったセンスの持ち主で、ニヒルな笑みがよく似合う少々垂れがちな目が印象的な青年。
もう一人は、まるで仏師が彫った仏像の如く悠とした雰囲気を持ち、流し目がとても似合う泣きぼくろが印象的な青年である。
二人は共に、大地の良き――というには一癖も二癖もある変わった友人である。
「おまえら……仮にも俺のダチだろ! 何だその言い草は!」
あまりにもひどい友人の言い草にかちん、ときて、大地は友人二人を睨みつける。
垂れ目の青年――名護一樹(なごかずき)は、そんな大地の怒りなど全く意に介さずといった様子で、シルバーの指輪をジャラジャラとつけた手で手元のタロットカードをめくる。
タロット占いは、奴の変てこな趣味の一つなのである。的中率は知らないが、こいつの元には占いを受けたい――大地の目から見れば、それ以外の目的がありありの――女共がやってくるほどだ。
「だってさぁ、おまえいろんな女と付き合っては、ゴミのよーに捨ててんじゃん。そりゃあ、恨みの十や二十、買ってんに決まってるだろぉ。呪われてたってオレは全然不思議に思わねーな」
ケラケラとまるで他人事のように――実際、奴にとっては他人事なのだが――名護は笑う。
それに泣きぼくろの青年――滝山静(たき
やませい)も静かに同意して頷く。
「そうだな。その少女には全てを見通す心眼があると見た。この辺りで自分の所業を正しておかんと、後悔するぞ。大地」
悟り澄ました顔で、ぱらぱらと静が見ているのは料理本。
こちらの趣味は料理で、これだけ聞けばごく普通である。
が、料理の腕は万人が認める玄人はだしであるというのに、なぜか奴が作りたがるのは惣菜とか漬物とかそういったジジ臭いものなのだ。
が、それでも食べたいという学生が――こちらは名護と違って男女問わず――群がってくる。
少しは自分の味方になってくれるかと思いきや、なんだこいつら。