ITO
□1、不可解な邂逅
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――もう駄目だ、切ろう。
しょわしょわと鳴く蝉の声を聞きながら、日陰のベンチに背をもたせかけた駿河大地はそう決心した。
ポケットから携帯を取り出し、ディスプレイを見る。薄暗い日陰の中で、パッと表示された時刻は午後一時三十分。
すうっと額に血管が浮かぶ。大地という
質実剛健な名に似つかわしくない、氷の結晶の如く繊細で、非の付け所のない端正な美貌は醜く歪んでいた。
待ち合わせの相手である女――確か、リカとかいう名前だ――が、「どうしても会いたい」というからわざわざ真昼間の公園なんぞに来てやったというのに、当の本人が遅れてくる始末。
「あの女……信じらんねぇ」
舌打ちをして、大地は色素の薄い目を尖らせる。
『時間にルーズな奴は、俺が世界で嫌いな人間のベスト3に入る』を公言して憚らない大地にとって、三十分も待たされるなど、この上ない屈辱だった。
しかもその三十分の間に容赦のない太陽光線に晒されるわ、蚊に喰われるわで、なんとか日陰のベンチに逃げ込んだものの、自慢の肌がぼろぼろになる原因を二つも三つも作る羽目になってしまった。
信じられない非常事態だ。
「許さん……この俺の美貌に傷つけやがって……ぜってぇシメる」
蚊に喰われた腕をさすって、大地はメモリーからリカの番号を呼び出した。
コールボタンを押し、携帯を耳に当てて額にじっとりと滲む汗を手の甲で拭う。
雲一つない晴天にあって殺人的な熱を放出している太陽が、容赦なく地面を熱している。そのためか空気がゆらゆらと揺らいで見えた。
(これはあれか? 温暖化のせいなのかこの蒸し風呂レベルの暑さは……)
それにしても、と大地は眉を吊り上げる。
耳に当てた携帯電話から聞えてくるのは、無機的な呼び出し音。いつまで経っても相手が出る気配がない。
「……電話にも出ねぇつもりか、あの女」
たかがあの程度の女にドタキャンされるとは、なんたる失態だ。
このままにしておくつもりは毛頭無い。プランを変えて、最悪の方法であの女を切って泣きを見せてやる。
つうっと口元を引き上げ、凶悪な笑みを大地は浮かべる。