小説部屋

□出会い
1ページ/2ページ



『う〜ん。今日も良い天気だな』


とある昼下がり背伸びと欠伸を同時にしながら彼は自室のカーテンをシュッと開けレースカーテン越しに窓を全開にし涼やかな外の空気を取り込むと即座に畳みに寝転ぶ。そしてだらだらとした一日を過ごすというのが彼の日常日課…今日もまたそんな一日を過ごすはずだった


ざわざわざわざわ外が何やら騒がしい…その騒がしさが何故か自分の部屋のドアの前からする


『何だ?』


嫌な予感が脳裏を霞めるも彼は起き上がるとドアに近づきノブに手をかける


『…………』


恐る恐るドアを少しだけ開け外の様子を伺うと近所のオバサン方がこちらのドアを見ながら何やら怪訝そうな顔をして井戸端会議中だった…ざわざわ


やあね…チンピラかしら……怖いわぁ…やっぱり警察呼んだほうがよくないかしら…そうね…でも関わらないほうがいいかもよ!この前もね黒い服のサングラスの人とかあの部屋に入っていったりベンツが止まってたりね……

などなど口々に好き勝手言っている


人の事情も知らないくせにさえずるな…などとは決して口にはだせず心で叫ぶも…警察を呼ぶ?チンピラヤクザ?そしてオバサン達の視線の先が気になり…まさか……


『帝愛の奴らかっ……』


そう叫びながら俺は思いきりドアを開けていた。開けるなりその声にびっくっとした井戸端会議連中はこちらを見ながら…あ、洗濯ものが…私もお迎えが…買い物に行かなくちゃなどと白々しく散らばっていった……ドアを開けた瞬間ドンという鈍い音がし視線を落とすと40過ぎくらいの男がぐったりとしてドアに凭れ掛かっていたらしい…らしいというのは今、俺がドアを開けた瞬間にドアから崩れ落ち倒れていると言ったほうが表現に近いからだ…


『っ……よ〜お…兄ちゃん…ドアッつうもんはもっと静かに開けるもんじゃねーのかい?クックッ』


見るからにチンピラ風…(虎柄なシャツに白のスーツ)なその男が口隅を上げ軽く手を上げにやけながら厭な笑みを向けてきた


『……』


その男の表情に一瞬背筋をゾクリとさせ言葉に詰まる…再度男を見れば目を閉じて息をしていないようかに思えた…慌てた俺はその男の前にしゃがみ込み顔を除く…何だ気を失っただけか……一瞬安心の表情を浮かべるもこの状況はどうしたものかと考える…救急車を呼んで病院へ搬送してもらえば話しは丸く収まるのだろうがその場合俺も付き添い人という形で病院に連れていかれ長い時間を束縛されるのが落ちだろう…そんな見ず知らずの奴の為に時間を裂かれるのを考えると何故か腹がたつ…かといってここに放置しておけばまたさっきの井戸端連中が囀りだすに決まってる……それこそ迷惑。そんなこんなと思考を巡らせ髪をガシガシ掻きむしり


『だあ……もう…考えても仕方ねえ…』


その男の腋の下に両腕を突っ込むと部屋の中へとズリズリ引きずりこむ



『何で俺が見ず知らずのしかもこんなチンピラ親父部屋に入れなきゃなんねぇーんだよ』


半ばやけになりながらその男を畳みに転がせば枕代わりにと座布団を頭の下に引いてやり…おまけに苦しくないようにと上着を脱がせタオルケットまでかけてやる始末…あまりに己の行動に嫌気がさして泣けてくる…


『この行動はあまりに矛盾してるだろうが!!…何度これで騙されて来たよ…俺は!?矛盾矛盾…行動自体が矛盾だらけだろうが…』

自分自身に罵声を浴びせれば余計に泣けてくる…こうなると落ち込みは酷くなる一方でその場に膝を抱えて丸くなり己で落ち付きを取り戻すまで堪えるしかない…自暴自棄……


それからどれくらい時が過ぎただろうか…落ち込むだけ落ち込み落ち着きを取り戻した俺は顔を上げ時計に目をやるもあれからまだ15分位しかたっておらず…溜息を混じりに机の上の煙草に手をかけたその時


『……うっ………』


隣の男が目を覚ましゆっくりと起き上がり俺を見るなり


『よう…さっき俺をドアで突き飛ばした兄ちゃんじゃねえか?』


気がついての第一声がそれだった…


『あんた…人に助けられておいて第一声がそれかよ…もっとねーのかよ。他の言葉がよ…』


思わずその一言に何かの糸が切れ煙草をグチャリ…握りしめながら立ち上がるとその男を怒鳴りつけていた。涙がとめどなく溢れてきてしまいそれを袖で拭う…止まれこんなことで泣いてどうする……うっ…うっ………鼻水まで出てきやがった……止まんねぇ…もうやだ……こんなことで泣いてる俺……かっこ悪い…うっ…うっ… 泣くな泣くなったら俺……心でいくら叫んで見ても泣き止めない……そんな俺の様子を呆れながら見ているのかと思ったらその男はゆっくり立ち上がりこっちに向かって歩いてくる…泣きながらも警戒して後ずさるが後ろは壁もうどうにもならないと身構え目をつむる…その瞬間ふわりと包み込むように抱き閉められ…その男の胸元にパフッと引き寄せられた

「うっ…うっぐ…うっ…」


一瞬何が起こったのか分からず固まる俺だが涙は一向に止まらねえ

『あんまり泣かねぇでくれや…俺は泣いた子のあやしかたをあんま知らんのよ…』


抱きしめられたまま軽く背中をポンポンと叩かれた


『……こ…子供じゃない……子供扱するな…カイジだ…伊藤開司』

…今度は子供扱いかよ……何故些細なことなのに無性に腹がたつのか解らない…けど腹が立つからしょうがない…その勢いにまかせてかどうかは定かじゃないが思わず自分の名前など口走っていた……


『ほぉーう?カイジか…いい名前だな。俺は赤木しげるだ…』


顎を捕まれ顔をクイッと上げさせらた…状況に付いていけずされるがままにしていると赤木と名乗る男の顔が自分に近づいてくる…その瞬間自己防衛が働き咄嗟に目を閉じる…すると自分の唇に生暖かい唇の感覚が、触れただけの軽いキス……き………キス……え………え゛ぇ゛ー声にならない声を上げ俺は腰が抜けたようにその場にしゃがみ込む。その瞬間ぐにゃりとしていた俺の思考回路がやっと動きだす
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ