長編小説部屋

□スターサイドホテルオープニングセレモニー【前夜祭】
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「クククッ…銀ニパチンコっていうのは案外簡単に見えて難しもんだな」



「お前さんな…博打は麻雀しか打ったことねえのか…」



「いんや…ゴルフの球は打ったことあるぜ」



「そりゃスポーツだろうが…」



「ああ…若けえ時にチンチロとかいうサイコロもやったな。あん時は刀があっちこっちに食い込んで死にかけたけどよ」



「いつも死にかけてるじゃねえか…お前さんは……」


聞こえるか聞こえないかの声でボソリと言えば話している間にも弾いている球はアタッカーの開閉口を通過し通り道である1段目のクルーンを抜け3段目には通らずに2段目のクルーンにある穴へと消えていっていた…



「それが博打ってもんだろう。」



「ああ…確かに……」



呆れを通りこし思わず平井もフッと笑っていれば…赤木は球が切れそうになった為ボタンを押し球を買いマジマジと台を見つめていた


「それより銀二…パチンコ球つうのは軽くて浮くもんなんけ…昔筒上の物を口で吹いたら球が浮くあれみてえになってんぜ。」



「なんだそりゃ…普通球は軽くねえし浮かねえな…」



「クククッ…やっぱりな」


「何がやっぱりなんだか……俺に話しかけてる暇があったらもうちっと真面目にやってくんねえか…」



訳がわからず赤木を見れば台を見て何やら笑っている…『何を笑っているのやら…』深いため息を吐けば赤木は右打ち台でもないのに右打ちをはじめていた。そう…この時…赤木は全く別の考え…もう1つのストーリーを考えていたのだ。



「銀ニ…俺は至って真面目に打ってるぜ。ほら…球がもうちょっとでアタッカーを通りそうじゃねえか」



「通りそうでも通らねえのがパチンコッてもんだ。ククッ」



「ほぉー。そうなんけ…。でも俺にはそんなの関係ねえな。通らなかろうが通ろうが俺は通す…」



「そうかい。パチンコッつうのを打ってるとみんなそう言うんだわ…」



「みんな…ふーんそうけ。でもな、ここからだぜ銀二」



クククッと笑いながら右打ちをやめない赤木の台を見て平井は驚いた。横隅に球がどんどん貯まってきているのだ…球の詰まり。釘と釘の間が狭いためそこに球が挟まりその球が足止めとなりその上に球が積み上がっているのだ…



「銀ニ…この球が一気に落ちたらどうなると思うよ」


「お前さんな…台は叩いてくれるなよ…」



「…そう言われると叩きたくなるな。(笑)」



「あまのじゃくが…」



そんなやり取りをしていれば外でガラスにへばりつき見ていた一条がドアを勢いよく開け慌てて中に入ってきた。



「み…右打ちは…認ていません。台を一度開けさせていただきます」



一条が鍵穴に鍵をさそうとした時赤木の手がそれを止めた。



「寝ぼけたこといってんじゃねえよ。球が詰まっちまったのも右打ち厳禁ルールもあんたの説明不足…ミスじゃねえか?都合のいいようにしてるのもいい加減にしろや。つくづくパターンなんだよおめえら…。それに今開けたらあんたらもろともドカーンだぜ。ニトロはちょっとした振動でも爆発するんじゃなかったか…今回はどれだけの威力を持ってるかわからねえくらいのニトロの量だったよな…」



言われっぱなしの一条が苦虫を潰したような顔をし赤木の手を振り払えば赤木がニヤッと笑う。乗り切らなくなった球があふれ横からぼろぼろ零れはじめていた…



「ま…まあ良いでしょう。確かに右打ちのルールを説明しなかったのも…釘の調整があさはかだったのも私のミスです。まあ、アタッカーを抜けて1段目のクルーン2段めクルーンを通ったからといってその次が通る訳けではないですしね。せいぜいあがいて頑張って下さい。」



不気味に笑う一条…強がりなのかそれとも何か通りえないと確信めいたものがあるのか…



「………」



その時重みで詰まっていた球が落ちその上に積み重なっていた球が崩れ開閉しているアタッカーを目掛け一気に流れ込み幾つもの球が1段目のクルーンを通り抜け2段目のクルーンへと吸い込まれた…まさに圧倒的圧力……その中の2つの球だけが3段目のクルーンへと繋がり休憩ポケットに入ったのだ…



「銀二…2段目も通ったぜ。ついでに開閉口は壊れちまった見てえだけどな…」


アタッカーの開閉口を見れば動いてはいるがほとんど閉じない状態になっていた…そんな台をみてクククッと肩を震わせいかにも楽しげに赤木は笑っている



「そりゃ…そんだけ球落としゃ通らねえはずの球だって通るだろうよ……」



「そうけ…?でも通ったことに変わりはねえだろ」



「………」



「さて…どうすっかな…銀二…どのボタン押せばいいと思うよ」



「さあな……右じゃねえか…」



「じゃあ、俺は左と思ったから間をとって真ん中にすっか…クククッ」



「そうかい。お前さんの博打だ好きにすればいいんじゃねえか…」



その様子を先ほどの余裕とはうって変わって苛々しながらガラスの向こうで見ている一条



「このポケットが通らなければ良いだけのこと…ボタンは3つ……確率は3分の1……絶対にこの沼がお前達なんかに打ち破れる訳がない…死だ……死…お前達に待ち受けているのは絶対的な死でしかない……落ちろ地獄に……」



一条はガラスの向こう…先ほどまでとは討って変わって足を鳴らしながら苛々しながらも不気味な笑みをもらしていた



「ボタンを押すぜ…銀ニ…」



赤木が最後の関門…3つのボタンのうちの真ん中に手をかけた瞬間そこにいた誰もが緊張し息を飲んだ。……緊迫し静まりかえった空気が室内に流れボタンの音が響き渡りパチンコ球が休憩ポケットから一つだけ弾きだされる。別室で見ていた観客達も画面に食い入っているのか…部屋には緊張感が走り誰一人として話している者はいなかった。…誰もが見守る中パチンコ玉は筒を難無く通りぬけ…インしたのだ……その瞬間…観客達が一斉に歓声を上げた。



「なっ煤c…今のは反則だ…認めない……だいたい台が壊れたこと自体が反則…やり直しだ…台を直してもう一度やり直し……」



ドアを勢いよくあけ檀上にかけ上がってきた一条は、赤木の隣でまくしたてた…


「クククッ…反則…このリモコンは反則じゃねえのか?風を逆噴射させるためのもんだろ…学習能力ねえな一条。今さら何いっても遅いんだよ。全部あんたの説明不足…ミスだろうが。早くこの手錠外せや…」



「い…いつの間にリモコンを……」



キッと一条が睨めば赤木が睨みかえした。部屋に設置されていた電話が鳴り響き…それを黒服が即座にとり…短い会話で電話が切れた。



「会長から…確保の御命令です。」



「なっ狽、…嘘だ…この私が…そんなの有り得ない……嘘だ…何かの間違えだ……有り得るわけがない…や…やめろぉぉぉ……」



焦りグニャリとした顔で半泣き状態の一条が黒服に取り押さえられ…檻に入れられていた平井の手錠と台に固定されていた赤木の手錠が外された。手首を摩りながら赤木が檀上を降り平井にの元へと近づき肩を軽く叩いた。



「俺と心中できななくて残念だったな…銀二…ククッ…」



「お前さんのほうこそ残念だったんじゃねえか。クククッ……」



「つまんねえな…銀二は…」



からかいがいのない平井に面白くなさそうに言えばフフッ…と平井はただ笑っている…そんなやり取りをしながら平井と赤木はガラスの部屋から出れば一条が黒服に連れられ廊下の曲がり角で止まり赤木達のほうを振り返った。



「再戦だ…待っていろ…お前達を絶対倒す……倒してやるから…」



赤木が一条につかつかと近寄った…



「…構わねえぜ俺は。今ここで…すぐに再戦しても」


一条の顔付きが一瞬変わりフッと笑う。



「今すぐだと…馬鹿か…次はお前に勝機はない…」



その時一条が笑っていれば地面がグラリと揺れた。そう地震でビル全体が揺れたのだ…これは…その場にい誰もが予期しなかった出来事…予想外の展開だった…



つづく
 

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