長編小説部屋
□スターサイドホテルオープニングセレモニー【前夜祭】
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「やめろ…辞めてくれ。こんな争いが何になる……」
押し迫る佐原…それを交わすカイジ…。
「カイジさん…争いうんぬんの問題じゃないんすよ…運符天符勝つか負けるか…それしか道は残ってない…だから俺は行く…」
佐原が足を前に踏み出しカイジを落とそうと肩を掴んだその時…無情にも二人の間を突風が吹き抜けた…まるで二人の争いを嘲笑うかのように…
「う゛…」
佐原はカイジの肩を掴んだまま固まり…カイジもまた…その突風に佐原の腕を掴んで堪えた。暫くの間両者動くことなく目をつぶっている…
「さ…佐原…大丈夫か…佐原…」
その声に目を開けた佐原が今の状況に気付きニヤリと笑う
「カイジさん…まだ、そんな事言ってるんすか?あんた甘いんですよ。だから…ゴミとかくずとか言われるんだ…今の状況…俺が有利。悪いんすけど勝たせてもらいます」
クズだのゴミだの言われればその言葉に敏感に反応しカイジも目を開けた。
「えΣ」
目を開ければカイジもその状況に気付く…そう…佐原の腕を掴んでいるカイジ…そのカイジの腕を掴む佐原…佐原に振り払われた瞬間押されればひとたまりもない。圧倒的圧倒的ピンチ!!ピンチなのだ…
「佐原…お…落とさないよな。振り払らわないよな…」
カイジの声が一瞬奮えまたも涙が溢れ頬を伝う。 もう先はない…
「すいません。カイジさん…泣かれてももう無理みたいす。勝機は俺にありますから」
ニヤッと笑い佐原が手を振り払おうとした瞬間2人視界がぐらりと揺れた。
「…なっΣ…」
「ざわ………
ざわざわざわ…………………」
画面の前で見ている観客の異様なまでのざわめき……
「さ………佐原…大丈夫か……佐原……」
神の悪戯か…悪魔の微笑みか…自然災害さえも悪戯に2人に襲いかかる。そう地震…なんら変哲もない地震…だがこの地上3000メートルのたった一本細い橋の上震度1の地震ですら大きな揺れに感じる。まさに致命的…致命的なのだ…
「だ…大丈夫か…さ…佐原。」
佐原がその揺れにカイジの手を離しその揺れに耐えようと体をふらつかせる。カイジもまた手が自由になったことによりバランスをとり何とか耐え咄嗟にふらついている佐原の腕を掴んだ。
「カイジさん……お…俺を落とす気ですか……でもこのまま俺の腕掴んでたら…あんたも一緒に落ちますよ」
鉄骨の揺れはなかなか納まらない。ふらつきながら佐原がカイジを睨んだ。
「ば…馬鹿…そんなことするわけないだろう。二人で…何とか二人で助かる…その方法を考えてるんじゃないか…仲間だろう。…仲間を見捨てるなんてできねえ……出来るわけねえ…う゛ぅぅ……」
恐怖心からなのか…二人どうしようもないくらいとめどなく涙があふれる。
「何処までもお人よしなんすね…あんた。あんたには負けたっすよ…」
一瞬俯き佐原は低い声でボソリと呟けば顔を上げカイジを見て涙の伝う顔で何時もの作り笑いをしニッコリと笑う。
「その優しさ命とりになるんであんまやらないほうがいいっすよ。」
無理矢理カイジから手を振りほどく佐原…咄嗟のことにカイジの手が空を舞う。
「さ…さはら…?!」
まだ微妙に揺れは納まらない。カイジは足に力を入れ耐えながらも佐原の言葉に相手の名を呼ぶ。
「カイジさん…仲間なんて言葉は俺は信じないすっけど、争うことが馬鹿らしくなりました…後は宜しくっす。俺もう無理みたいすから」
ニッコリ笑う佐原…
「無理じゃない。諦めるな耐えろもう少し耐えれば揺れは治まる。佐原耐えるんだ…そこまで耐えろよ。佐原…」
懸命に止めようとするカイジその時地震による誤作動か…一瞬鉄骨に微量の電流が走る…
「う゛…うわあああああ………」
その電流が2人の脳天を突き抜けるように駆け抜けた。二人の悲鳴が断末魔のように響き佐原の体がグラリと揺れ足が空を舞いカイジと視線があった瞬間佐原はカイジにフッと笑い目の前から消えた。
「佐原ああぁぁぁぁぁーーー」
カイジの叫び声が深い闇夜へと吸い込まれる…だがその声は虚しくもう佐原には届かない…
「と…利根川…」
泣きながらも利根川を怒鳴りつけ睨みつけるカイジ…
「すまんすまん。機械の関係で誤作動がおきたい見たいだ。直ちに元に戻す。心配は無用だ…こういう競技にハプニングはつきものうだろう。それより早くせんと夜が開けてしまうぞ」
利根川は不気味に笑いながら椅子から立ち上がる。
「利根川…利根川…絶対に…ゆるせねえ……許せねえ利根川……」
いつのまにか揺れがおさまり…泣きながらも前進するカイジ…だが前進するにも体には微量の電流が流れ続け体が悲鳴をあげる。
「誤作動の解除もうすぐで…できます」
黒服が復旧作業を急いでいる中…利根川はまたも口隅を上げ歯を剥き出しにしながら不気味に笑う。
「しなくていい…」
「はっ?!」
その一言に黒服が何をいったのかという間抜けな声をあげる。
「そのままで良いと言ったのだ…」
「はっ…はあ……?!」
その一言に黒服が復旧作業を中止した…
「所詮クズはクズその程度の電流を喰らうのは当たり前。ただで大金を貰おうなどという考えが甘いのだ。ゴミはゴミらしくしていればよいだけのこと」
「………」
黒服は何も答えられず利根川の見つめる先を追うように視線を泳がせた。
「う゛あ゛…あ゛……い痛……てえ……うぅぅう……駄目だ駄目…根を上げちゃ…佐原や森田のためにも…う゛…あ゛あ゛……」
啜り泣きながらも…何とか後少しの所まで辿りついき足を止めた。感覚はもう電流のせいで麻痺しかけている。思考が働かない…そう…カイジにはもう気力しか残されていなかったのだ…
「か…カイジ…しっかりしろ……」
森田にも微量の電流が流れカイジが歩く度にビリビリと体中を痺れが駆け巡っている…にも関わらずカイジに声をかけた。
「ああ゛…あ゛あ゛…大丈…夫だ…森田……絶対……ぜっ…たい…助けるから……」
森田のほうは振り向けないが何とかその場で返事を返した…その時額に冷たい物が当たる……
「え……?」
そらを見上げるカイジはらはらと白い物が天から舞い降りている。思考が働かないカイジにもそれは雪だとわかった……
「ゆ…き……」
その雪を見つめ…何気無しに自分の目指している階の上へと視線を投げればその階に人の影が揺らいだ……働かない思考で目を懲らしもう一度見るももうそこには人影はなかったのだ…
「今のは……」
足を止めしばし考えるカイジ…視線の直ぐ先はゴール…だが…何かがおかしい…カイジにある胸騒ぎが…
「う゛…はっ…はぁ…」
立ち止まってる間にも電流は体中を駆け巡る…このままでは後数分ともたない。早くしなければ…… 考えてるいる暇はない…そう思い足を進めようとした時目の前の不思議な光景に一瞬目を疑った…
「な…何だ…あれ……」
そうカイジの目の前…何もない空間に雪が何かに当たっては跳ね当たっては跳ね…うっすらと積もりはじめていたのだ。しかもその積もりかたはまるで階段のように…上に伸びている
「な…何で……えΣΣ階段…が……??…」
そう呟いたカイジが上を見上げればそれは非常口へと繋がっていた…
「ま…まさか……罠か……」
しばし考えるも余裕がないのが事実…一か八かカイジは最後の力を振り絞りその階段へと跳びうつる…乗った瞬間割れるかもしれないガラスの階段へと…
「………」
雪のせいで滑り落ちそうになるも四つん這いでなんとか耐えた。
「…うっ……うっ……割れない……よかった……うっ……うっぅう」
カイジ啜り泣きながらも四つん這いのまま階段を慎重に一歩また一歩と上って行く。ゴールはもう目の前……
「あ…後す…少し……」
雪が先ほどより激しくなりカイジの体にも積もりはじめていた。当然階段の雪も…先ほどより積もっている……
「あと…一歩……非常口……」
やっと辿り着いた非常口…カイジ、ドアノブに手をかけようとした時向こう側からドアが開いた。
「え…?」
と思うも体はぼろぼろで寒さのせいか手がかじかみ思考は殆ど働かない状態…わらをも掴みたい心境で開いたドアの淵に手をかけ体を半分部屋の中に入れた瞬間…メキッという音と共にガラスの階段が脆くも音をたて崩れ落ちたのだ……
「え…え゛Σ。あぁ゛あ゛ぁ゛」
足場を無くしたカイジに残された道は腕の力だけで部屋に入りこむしかない。カイジ足をばたつかせもがきながらも必死に部屋に入りこみその場に仰向けに倒れこんだ…今にも気絶しそうなカイジの荒い息が部屋に響けば黒い人だかりがカイジを取り囲みいきなり拍手が部屋中に鳴り響いた。
続く