長編小説部屋
□スターサイドホテルオープニングセレモニー【前夜際】
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「巽…遅くなって悪い」
軽く手を振れば…巽もまた安田の顔を見つけフッと笑みをつくり軽く手を上げた
「しかし胡散臭えパーティーだな…」
辺りを見回せば黒服達が料理やら飲み物やらを運ぶ姿が。安田もそんな黒服達からスパークリングワインの入ったグラスを受け取り飲み干せばグラスを黒服に返す
「仕方ねえさ…このホテルは最近大手グループとして名乗りを上げてきた帝愛グループの物だからな。しかも今日は帝愛の会員と関係者が招待されてるパーティーときてる…胡散臭いのは当たりまえだな」
巽は吸っていた煙草を灰皿に押し付け揉み消せばカクテルを受け取り一口…口を付けテーブルに置いた
「まあ、今日はプライベートだから少しは仕事から離れようぜ」
安田の肩を軽く叩きながらフッフッと笑う巽。そんな巽に安田もそうだなと肩の力を抜くが職業柄なのだろうか回りの連中が気になってしまう。
「それより巽よ…お前がグラサンじゃなく眼鏡なんて掛けてしかもオールバックで髪束ねてる姿なんて初めてみたぜ…なんつうか何時もそのほうがいいんじゃねえか?可愛いくてよ」
アハハハと笑いながら安田が背中を軽く叩けば巽は少しムッとしている
「俺も安さんのよれよれでないスーツ姿は初めて見たな。カッコイイぜ。」
フッと笑われ耳元で囁かれれば背筋がぞくりとする…このやろう…わざと言ってやがるなと諦め溜息はけば…辺りが暗くなりスポットライトが檀上中央に当てられる。そこに上がった一人の男とその袖で見ている車椅子の老人
「皆様方、本日は我が帝愛グループ誇る…スターサイドホテルのオープニングセレモニー前夜際へようこそおいで下さいました。私、代表取締役補佐の利根川と申します…当ホテルはレストランからカジノ様々ございます心ゆくまでご堪能下さいませ。それでは、失礼ながらここで乾杯の音頭を取らせて頂きたいと思います。皆皆様今配られていますグラスをお受け取り下さい」
利根川がグラスを掲げ乾杯の音頭を取れば一斉にグラスが天高く掲げられ乾杯と歓声が上がる。会場が明るくなり軽い挨拶を終えた利根川が一礼して檀上から降りていった…老人もいつの間にか檀上から姿を消していた…
「巽、あれが帝愛の元締か」
巽に耳打ちすれば
「ああ、車椅子の老人が会長の兵藤和尊。今あそこで若い奴の相手してる赤い服来てる奴が息子の和也らしい。表向きはこんなホテルのオーナーだ何だってやってるが裏を返したら何をやってるやら。しかも招待状に、本日の催しものにはこの紙に予め掛け金と番号一つをお書き添えの上フロントへお収め下さいなんて書いてあった…」
「はあ?何だそりゃ」
紙を見せられ手に取ってみれば確かに四角い枠とその下に金額を書く場所がある…それをまじまじと見ていれば後ろから知った声が…
「人間競馬だとよ…全く悪趣味だよな」
その声に振り返れば
「よお…」
ニヤリと口隅を上げ…軽く手を上げる人物がいた…
「ぎ…銀さん」
思わず二人してハモリ…尚且つ見知った人物の名を口にする
「来てたのか…」
巽が聞けば…ああ、プライベートだが…な…と帰ってきた…確かにこの人に招待状が届いてないはずがないと納得し…プライベートということはまさかあいつも来てるのかと辺りを見回せば案の定
「銀さーん待って下さいよ。ちょっと目話した隙にいなくなっちゃうんですから」
皿に山盛りの食べ物を抱え銀二の後を追ってきた人物
「あれ…安さんに巽さん…二人も来てたんですか?」
思わず目の前に現れた森田の姿に吹き出してしまった安田
「森田…その格好まるで…あはははは」
笑いながら指をさせば
「銀さんに正装してこいって言われてしてきてみれば…どうせ成人式とか七五三とか言うんでしょ…散々銀さんに馬鹿にされましたからもういいですよ…」
と膨れ面をしながら口を尖らせている
「いや、七五三つうよりは…今から式を挙げる新郎じゃねえか…ああ、おかしい…腹痛てえ」
少し涙目になっていた森田に巽がフォローを入れようとしたが口から出た言葉は
「孫にも衣装…だな」
巽さんまで…と浚に落ち込む森田だったが…もうやけだとばかりに持ってきた皿の中の肉にかぶりついていた…
「森田悪るかった…少し言い過ぎちまっなた…」
まだ何処か笑いを含んでいるものの少し言い過ぎたと反省し森田に謝罪すれば
「もういいです…正装って聞いてこれしか浮かばなかった俺が悪いんですから」
開き直った様子で浚に肉を追加し頬張っている。そんな様子を平井が目を細め可笑しそうに見ていた。その時また会場が暗くなり頭上をライトが照らした…そこに浮かび上がったのはなんの変哲もない数本の鉄骨だった…