Animal People3-旅立ち

□10.違えてはならないこと
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 過ごしやすい陽気の10月上旬。陽気とは裏腹に物騒な事件が起きた。不特定の人を狙った暴行事件である。それも新矢の会社のすぐ近くで。その為会社は社員に対して気をつけるよう通達を出した。しかしみんな揃って怖いねと口では言うもののあまり緊張感はなかった。犯行場所等から新矢も頭の隅に置いておく程度で、そこまで気に留めてはいなかった。だが思わぬことが起きてしまった。
 その日、同僚の1人がいなかった。休みかと他の者に聞くとどうやらそうらしい。しかしどうしてかまでは聞いてないと返してきた。新矢は少し不審に思った。昼休みになり同僚と共に話しているととんでもない言葉が耳に飛び込んできた。
「今日、波多野さん休みでしょう?どうやらね。噂の暴行事件に巻き込まれたらしいわよ。全治1ヶ月のケガで入院だって」
新矢は振り返った。そして声の主を見つめる。
「今何て…」
「波多野さん。飲み会の帰りに襲われて入院だって」
新矢は驚きで声が出ない。
「でも怖いよね。知ってる人が巻き込まれると」
「本当、本当」
口々に女達はしゃべったが新矢の耳には届いていなかった。自分の近しい人が事件に巻き込まれ、それも入院する事態になるとは。新矢にとってはかなりショックだった。その後、新矢はそんな気持ちを抱えながらもできる限り見せないようにし、いつも通り仕事を終えてまっすぐ家に帰った。
 その日、新矢は家に帰ると珍しくパソコンに向かった。そしてインターネットから暴行事件の情報を引き出し始めた。それなりの量が集まったところで新矢自身がプロファイルする。困ったことにこの事件の犯人はあまり痕跡を残していない。闇討ちをしているようで被害者も犯人がよくわからないらしい。なので犯行場所や手口から考えていく。
「どちらかというと少年の犯行かな」
その辺りは繁華街の近くで、実は結構たまり場が多かったりした。また1回の事件で数人の被害者が出ている。複数の犯人がいることになる。それにあわせて完膚なきまでに被害者を叩きのめしている。やはり少年グループの可能性は高い。新矢はこれからどうしようか考えた。
「後ろに変な影がなければいいんだけどな。とにかく接触はしたほうがいいか」
新矢はそう1人つぶやくと、パソコンを落とした。
 だがそれから数日間、あまり目立った動きはなかった。警察が警戒を強化したのである。そんな訳でみんなの警戒心が少し緩む。まだ犯人が捕まったわけでもってないのに。そんなある日のこと。新矢は課長の武藤栄吉にのみに誘われた。
「成田。おまえも一緒に行かないか?」
「今日、ですか?」
「ああ。帰りにな」
新矢は少し考えた。
「でも今しばらくは控えたほうがよいのでは?犯人は捕まっていませんし」
「怖いなら別にいいぞ」
他に誘われた同僚が言う。新矢はため息をついた。どうやら何言っても行くつもりのようだ。
「で、結局止めておくのか?成田は」
「喜んで付き合いさせてもらいますよ」
新矢の言葉に周りは少し驚いた。
「別に無理しなくていいんだぞ」
「気を遣わなくても大丈夫です」
新矢は微笑んだ。
「そうか。では、終わったらな」
栄吉がそう言うとそれぞれ仕事に戻っていった。新矢は少し心配そうな顔で内心思っていた。何事もなければいいな、と。
 その夜、仕事が終わるとすぐに夜の街へとくり出した。久しぶりのことなのでみんなかなりはしゃぎ、とてもにぎやかだった。また1軒だけではおさまらず、2軒もはしごしかなり遅くなってしまった。新矢は不安になってきていた。しかし全員が同じ方向ではなかった為全員を守ることはできなかった。新矢は栄吉ともう1人の同僚、喜多の3人で帰ることになった。他の者達のことを気にかけつつ駅へと向かう。しばらく歩くと真っ暗な公園が見えた。それを見て新矢はドキッとする。確かここは犯行場所の1つではなかったか。そんなことを考えていると周りに人の気配を感じた。そろそろと新矢達に近づいてくる。新矢は体を緊張させた。始まりは一瞬だった。喜多に1人が飛びかかった。新矢は喜多の身を引き寄せ、攻撃から守る。それと同時に栄吉に他の者達が飛びかかる。新矢は喜多を連れたまま栄吉の体をさらい、距離をとり犯人達のほうを見る。犯人は新矢が思った通り高校生位の少年だった。しかし栄吉はその1人を見て驚く。
「栄一?」
その言葉に新矢は驚いた。まさか栄吉の知っている人間がやっていたとは。
「栄一なのか?何でここでこんなことしている?」
しかし栄一と呼ばれた少年はそれを気にすることなく他の少年達に指示する。
「やれ」
小さい声が聞こえた。それと同時に少年達が一斉に新矢達に飛びかかってくる。
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