Animal People3-旅立ち

□8.同じ闇を背負った人
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 この日竹流は久しぶりに大学に来ていた。集中講義の日程を忘れてしまい確認しに来たのだ。事務所の横にある掲示板を見ていると、後ろのほうからもめているような声が聞こえた。振り返ると1人の男が数人の男女に取り囲まれていた。取り囲まれた男は明らかに嫌がっていた。竹流はなぜか気になり、近づいていった。すると取り囲まれている男が少し普通の人間と違うことに気付く。竹流は少し驚いた。耳がピンと尖っていた。まるで犬など獣の耳のように。その時、横から1人の男が飛び込んできた。その男もまた尖った耳をしていた。
「やめろ!風真をそれ以上傷つけるな」
内容とは裏腹にその言葉は少々震えていた。その様子を見て取り囲んでいた男の1人が新たに駆けつけた男に近づいていった。駆けつけた男は思わず後ずさった。
「だったらおまえが俺らの相手してくれるの?狼ちゃん!」
男は言うと同時に駆けつけた男の腹に一撃を加える。急所に当たったらしく、駆けつけた男はあえなく昏倒した。
「陸!」
取り囲まれている男が叫んだ。しかし駆け寄ろうにも他の者達に阻まれてできない。昏倒させた男は倒れた男を蹴飛ばそうとした。さすがに見かねた竹流が口をはさむ。
「もう倒れて気を失っているんですから、それ以上やることはないんじゃないですか?」
男の視線が竹流へと向く。
「何だ?おまえ。関わらないほうが身の為だぞ」
「あなた方のしていることはやりすぎです。人に対してすることじゃないです」
竹流の言葉に男は笑った。
「こいつらの耳、見てみろよ。尖ってるだろう?人間じゃないんだよ。…化け物だ」
竹流はため息をついた。
「仮にそうだったとしても、彼らはあなた方に何かしましたか?そうでない以上あなた方にこんなことをする権利はありません」
男の顔が険しくなる。
「グダグダうるせえんだよ!」
男は竹流に拳を繰り出した。竹流はそれを受け流すと、足を引っかけて男を転ばした。あまりに突然のことに対処できず、男をしたたかに腰を打ちつけた。
「ってえ。貴様…」
男はわめくものの腰が痛くて動けない。その様子を見て、取り囲んでいた男女が驚く。竹流はそちらを見つめた。
「僕は別にあなた方と争う気はありません。その人のこと、解放してもらえませんか?」
取り囲んでいた男女はリーダー格と思われる男を見つめた。
「今日のところはおまえに免じて放してやるよ。だけど次もこうなるとは思うなよ」
そう言って竹流のことをにらみつけると、男はその場を離れた。その男に続くように取り囲んでいた男女が離れていく。竹流に転ばされた男はそれを見て、腰をさすりつつ仲間を追いかけた。男女が離れていくと、取り囲まれていた男が昏倒している男に駆け寄る。
「陸」
しかし完全に気を失ってしまっている為答えが返ってこない。竹流は昏倒している男に近づき、様子を見た。
「大丈夫です。気を失っているだけのようです」
取り囲まれていた男は竹流のことを見た。
「誰だかわからないけどありがとう。助かったよ」
「いえ。さすがにあれは見かねますよ。あなたが無事でよかったです」
竹流の言葉に男が微笑む。
「でも、どうしましょうか?このままここに寝かせておくのはマズいですよね?保健室にでも運びますか?」
男が少し焦る。
「あ、いや、それは…」
竹流は男のことを見つめた。そして少し考える。
「すぐ近くに僕がお世話になっている病院があります。念のため診てもらいましょう」
男はもっと焦った。
「え、本当に大丈夫だから」
「安心して下さい。お2人のような人の対処も万全ですから」
竹流の言葉に男は驚いた表情を浮かべる。竹流は微笑むと倒れている男を背中に背負った。
「じゃあ行きましょうか」
竹流は歩き出した。男は渋々竹流について歩いた。
「そう言えば自己紹介していませんでしたね。僕は成田竹流です。あなたは?」
「僕は皇風真といいます。成田君が背負っているのが弟の陸です」
竹流は名前を聞いてある確信をもった。
「あの、別にそんなに気を遣ってもらわなくても大丈夫ですよ?」
「本当に近くですから。遠慮しないで下さい」
竹流はにっこり笑った。風真は少しげんなりしていた。竹流の大学から歩くこと10分。竹流達の専属医師がいる若葉病院に着いた。なぜか竹流の大学から近かったのである。竹流は受付で原先生を呼んでもらい状況を伝えた。そしてあることを耳打ちする。原先生は2人のことを見た。
「まあ、確かにその可能性は高いね。念のため中で診察しようか」
「お願いします」
原先生は風真に近づいた。
「一応陸君をちゃんと診たいから、こっちに来てもらえるかな?」
風真は顔を曇らせたが静かに頷いた。原は竹流達の診察室へと向かった。
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