Animal People3-旅立ち

□6.夏だ!プールだ!
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 8月に入り大半の者が夏休みを満喫している頃、零はみんなにどこか遊びに行かないかと声をかけた。すると新矢と竹流を除く3人からイエスの返事が返ってきた。それでどこに行こうかと話し合った結果、ウォータースライダーがついた広いプールに行くことになった。そのことが決まった時、ただ1人不安を覚えた者がいた。冬華である。実は冬華はいまだに泳げず、なぜかプールに入るのもあまり好きではなかった。珍しく春彦は興奮してしまい、冬華のその気持ちに気付かなかった。それから間もなく泉と望、春彦の4人で出かけ、新しくかわいい水着を新調した。その為少しは楽しみになったが、冬華の心の中に少しまだ恐怖は残っていた。だがあっという間に約束の日になってしまった。冬華は緊張した面持ちで家を出る。その様子にさすがに春彦も気付いた。
「大丈夫?冬華。顔色よくないけど」
冬華は答えなかった。春彦は少し考える。
「もしかしてプールが怖いとか」
冬華が微妙に反応する。春彦はにっこり笑った。
「大丈夫だよ。大人の人もいるし。みんな一緒にいれば楽しいよ」
それでも冬華の表情は硬かった。この日のメンバーは声をかけた零、それに答えた泉、晶、優一の他、泉の家族の望、春彦、冬華、そして晶の妹的存在である恵美理の総勢8人だった。一度マンションのエントランスに集まり、そこから電車で移動する。春彦の言った通りみんなで話しているうちに冬華は少しずつ楽しくなっていった。そして約40分後、一行はプールへと到着した。男女に別れ水着に着替え始めたのだが、冬華の心の中にまた少しずつ恐怖心が湧き上がってきていた。その様子に恵美理が気付く。
「どうしたの?冬華ちゃん。そんなに怖い顔して。笑うとかわいいんだからもったいないよ」
しかし冬華の表情は変わらない。そんな冬華の手を望が握る。
「あんまりプールが好きじゃないらしくて。大きいプールだからちょっと怖がっているのだと思います」
「そうか。でもみんないるから怖くないよ。一緒に行こうね」
恵美理はそう言うと冬華の空いているほうの手を握った。冬華は驚いて恵美理のことを見る。恵美理は微笑んだ。その様子を見て望も微笑む。
「じゃあ、行きましょうか」
3人は歩き出した。外に出ると、すでに春彦を含め男達はプールの中にいた。3人に気付くと泉が手を振った。
「悪いな。先に入ってる。早くおいで。冷たくて気持ちいいぞ」
「うん。ほら、お父さんも呼んでる」
しかし冬華はプールサイドで立ち止まった。それを見て望が聞いた。
「冬華、どうしたの?」
だが冬華は何も答えず、プールの前で立ちすくんでいた。仕方なく望が先にプールの中に入り両手を広げる。
「ほら、大丈夫怖くない」
それでも動かない冬華。望はまたプールサイドに上がった。そして冬華の前にしゃがみこむ。
「1人じゃ怖いよね。一緒に行こう。抱っこしてあげる」
「大丈夫ですか?望さん。私がやりましょうか?」
「多分大丈夫とは思います」
その様子を見ていた泉がプールサイドへと上がる。
「無理するなよ。10キロの米袋持つので大変なんだから。俺が代わるよ。望は春彦と一緒にいてくれ」
「でも…」
「大丈夫だから。な?」
泉に言われて望はしぶしぶ春彦のところに行く。一方泉は冬華のことを見た。
「さあ。お父さんと一緒に行こう」
泉はそう言うと冬華を抱き上げた。冬華は泉にしがみつく。さすがに泉はやれやれと苦笑いした。しかしそのままプールの中に入っていく。冬華は濡れないように足をできるだけ上げた。
「大丈夫だよ。冬華。お風呂とかと同じだから」
しかしやっぱりだめそうである。震えてはいないにしろ泉にぎゅっとしがみついたままだった。さすがに泉が困った顔を浮かべる。こういう時の冬華をなだめるのはかなり至難の業である。その時、その一部始終を見ていた恵美理が泉に言った。
「泉さん。冬華ちゃんのことよこしてもらえますか?」
「え?でもこの状態じゃちょっとな。それに恵美理ちゃんにはちょっと重いと思うんだけど」
「大丈夫です。こう見えて力はありますから」
恵美理はそう言って力こぶを作るとにこっと笑った。泉は冬華の様子を見た。先程よりは落ち着いてきているように見えた。
「冬華。恵美理ちゃんが呼んでる。代わってもらおうな」
冬華の表情がこわばる。それを見て恵美理が冬華に言った。
「大丈夫。水の上で落とすようなことはしないよ」
冬華は恵美理のことをじっと見た。恵美理が冬華に手を伸ばす。恐る恐るとだが、冬華が手を開いた。そしてどうにか泉から恵美理へと冬華が移る。恵美理のほうが背が低いため冬華の足が少し水についてしまう。必死で水から上げようとするが無理だった。さすがにあきらめる冬華。
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