Animal People3-旅立ち

□5.異なる世界
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 7月下旬。大学生の面々が試験に頭を悩ませている頃、優一はなぜかチーターの夢を見た。もちろん優一が何度も会ったあのチーター達である。しかし優一自身も試験の真っ只中。チーター達のことを悩む余裕もない。仕方ないのであまり気にしないようにして試験勉強に励む。しかしその夢はほぼ毎日見てしまうので次第に気になって仕方なくなってきた。そして試験勉強の合間に優一はカレンダーを見つめた。前回会った日からもう3ヵ月が経とうとしている。
「そういえば時間ができたらまた会いにいくって約束してたっけ」
優一はそうつぶやくとチーター達に思いをはせる。
「でもまだ今は無理だな。だってあと1週間は試験だし」
優一は苦笑いしながらふうとため息をつくと試験勉強を再開した。
 それから一週間が経ち、試験も残すところあと1つとなった。まだ試験がある為優一は少し悩んだが、結局チーター達に会いに行くことにした。前回同様うまく時間を見計らい、できるだけ長く話せるようなにした。だがチーターの檻の中が見えた時、優一はぎょっとした。もう子供のチーターの大きさが成獣と変わらないにもかかわらず、行動は子供と同じだったからである。じゃれあう姿はかなりの迫力だった。
「うわぁー。また大きくなったな。これじゃもう僕1人の手には負えないなあ」
優一はそう言いながら檻のそばまで近づき、声をかけた。
「久しぶり。時間に余裕できたから会いに来たよ」
優一の声を聞いて子チーターが集まってきた。もう本当に大きく、頭から首にかけて生えている産毛だけが子供であることを物語っている。子チーター達は優一に早く遊ぼうと言ってきた。優一は苦笑いした。
「ごめん。すぐは無理そう。でも後で一緒に遊ぼうね」
子チーター達ははしゃいだ。久しぶりの遊び相手なのだから。そんなふうに子チーター達と話していると母チーターがやってきた。そして優一に声をかけてきた。優一はにっこり微笑む。
「うん。元気だったよ。しばらく来れなくてごめんね。だけど、子供達もう大人と変わらないね。最初見たときびっくりしたよ」
母チーターは最近相手が大変だと笑った。優一はうれしくなった。
「今日は動物園終わってから会わせてもらえるようにするから。待っててね」
母チーターはわかったと軽く鳴いた。優一はそれを聞くと1度チーターの檻から離れた。
 動物園が終わった後、優一は飼育係の人にチーターの檻へと入れてもらった。中に入るとすぐ子チーター達が優一に駆け寄り、飛びかかってきた。さすがの優一も3匹に押し倒される。
「もう。十分体大きいんだから。3匹いっぺんに飛びかかられたら、僕かなわないよ」
しかし子チーター達はそのまま優一にじゃれてきた。言っても聞かないようなので仕方なくまじめに相手をする。とはいえちゃんと力の加減はわかっているのであまり気を張らなくても大丈夫ではあった。それから約15分後。子チーター達は少し気が済んだのか母チーターの近くに座りこむ。優一もそばに座った。
「本当に大きく強くなったよね。前よりは3匹の相手、大変だもん。やっぱりそうでしょ?」
母チーターは少し笑う。そして確かにと返す。
「でもさ。大人になったら違う動物園にもらわれていくってこともあるのかな。チーターってやっぱりいるところ少ないし」
母チーターはしばらく黙った。そして小さく、今のところその予定はないといった。しかし母チーターは悲しそうな顔をした。優一はかわいそうになり、母チーターの頭を撫でる。
「ごめん。変なこと聞いたね。やっぱりまだ心配だよね。1人立ちしてないし」
母チーターは優一に寄り添ってきた。そして優一の目をじっと見つめる。
「どうしたの?」
それでもしばらく母チーターは優一を見つめていた。子チーター達も2人のことを見つめる。母チーターはポツリポツリと話し出した。確かにいずれ子供は1人立ちし、どこかへ行ってしまう。本来は1匹ずつで暮らすからそれでいい。でもここでは仲間の姿を見ることが全くといっていいほどない。だから何となく不安なんだと。子チーター達は母チーターの想いを聞いて不思議そうな顔をした。動物園で生まれ育った彼らにとってはよくわからないのであろう。母チーターは真面目な顔で優一のことを見つめた。そして言う。チーターとして生きてはくれないだろうか、と。もちろん優一は驚きで声が出なかった。母チーターはそんな優一を見ながら続けた。急いで答えは出さなくてもいい。でも真剣に考えてくれないかと。優一は視線を落とした。今までそんなこと考えたことがなかったのだから仕方ない。しばらくの沈黙の後、優一は答えた。
「一応は、考えてみるね」
母チーターは微笑んだ。その後また子チーター達としばらく遊んでから、優一は動物園を後にした。
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