Animal People3-旅立ち

□4.新たなスタート
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 雨の日も減り、梅雨明け間近の7月上旬。望のもとに1通のエアメールが届いた。差出人はもちろん望の父親で、近々1度家に来ると書いてあった。それを見て望は驚いた。実は泉、春彦と冬華の3人と暮らしていることを父親に知らせてはいなかったのである。望はすぐに泉に相談した。
「泉、あのね。相談があるんだけど…」
「ん?何かあったか?」
「あのね。今日、お父様から手紙が届いたの。近々会いに来るって」
「そう。よかったじゃん。久しぶりだろう?」
「う、うん」
望は口ごもった。その反応に泉のほうが驚く。
「どうした?嬉しくないのか?」
「嬉しいは嬉しいんだけど…」
望の言葉に泉は望の父親が来てはマズい訳を考える。
「もしかして、俺と同棲してて、それに加えて春彦と冬華がいることを全く伝えてなかったとか」
黙り込む望。泉はため息をついた。
「そっか。確かにそれはマズいな。俺も2人のことばっか気にしてたし。望のことまで気がまわってなかった」
「ごめんなさい」
望は申し訳なさそうな顔で言った。泉はそんな望に苦笑いを返す。
「望だけのせいじゃないよ。とにかく対策は立てないとな。で、お父さんいつ来るって?」
「近々としか書いてなくて正確な日にちはわからない」
「うーん。今仕事もちょっとたて込んでるんだよな。詳しい話は明日の夜でも大丈夫かな?そうすれば少しは落ち着くから」
「多分、大丈夫だと思うわ」
少し不安げな表情で望が頷く。
「じゃあ、それで頼む。望も自分で少し考えといて」
「うん」
そんな訳でその日はおひらきになった。
 次の日、春彦と冬華を学校へと送り出し、望が洗濯物を干していると電話が鳴った。望は慌ててリビングに戻った。
「はい。浅野です」
「望か?」
望はその声に少しドキッとした。
「お父様!少しびっくりしましたよ」
「別にそこまで驚かなくても。最近はどうかね?元気でやっているかね?」
そう聞かれて望は控えめに微笑んだ。
「はい。元気でやっております」
「そうか。それはよかった。ところで手紙は届いたか?」
「はい。昨日届きました」
「そうだったか。それは少し悪いことをしたかな」
「え?」
望は思わず声を上げた。嫌な予感がよぎる。
「実は今日本に来てるのだ。仕事があるので少し遅くなるが、9時頃には着くと思う」
望は絶句した。もう日本に来ているなんて。
「望?どうかしたか?」
「い、いえ、何でもないですわ」
「では、そういうことで頼むよ。また、夜な」
「はい…」
電話はそこで切れた。望は焦って、パニックに陥りかけていた。
「どうしよう…」
とにかくまずこのことを泉に伝えることにした。今は仕事中のためメールを送る。その後、家に来るというのだからとにかく掃除だけはすることにした。お昼頃、また家の電話が鳴った。かけてきたのは泉だった。
「何かとんでもなくマズい状況に陥ってるみたいだな」
「うん。もう来ているとは思わなかった」
望はシュンとした。
「今日だけ俺がどこか行くのもな。春彦と冬華がいるし」
「本当にどうしよう…」
望の様子に泉は少し驚いた。
「そんなに思いつめるなよ。それで全部が終わりな訳じゃないんだし」
しかし望は答えない。泉はため息をついた。
「望。本当のこと、ちゃんとお父さんに話そう?いつまでも今のままじゃいられないわけだし。ただ、今の状態だと俺早く帰れるかわかんないんだよな」
「お父様の相手、私1人でしなくちゃいけないの?」
望が寂しそうに言う。
「お父さんが来るまでには帰るようがんばるよ。だから望もがんばって。お父さんのことも大切だろうけど、今の生活も確かに大切だろ?」
泉に言われて望ははっとした。
「うん。わかった。がんばってみるよ」
望はしっかりとした声で答えた。その反応に泉は安心したようだった。
「とにかく俺も早く帰れるようがんばるから。それまでは頼む。じゃあな」
そこで電話は切れた。望は1人気合いを入れると動き始めた。
 午後8時半過ぎ。泉が帰ってきた。とりあえず夕食を取りながらどう話すか、少し2人で話し合った。
「親を亡くしてばらばらに引き取られた春彦と冬華を一緒に過ごさせるために俺が引き取った。でもいつも俺が面倒をみれない。そのため望に手伝ってもらっていた。そしてそのまま一緒に暮らすようになったというところかな」
「少し省いた部分もあるけどね」
「あまり変なこと言って心配させないほうがいいと思ってさ。どうかな?」
望は少し考えた。
「多分それで大丈夫だと思う」
「じゃあ、一応そういうことにしよう。あとは望のお父さんがどういう反応をするかによるな。出たとこ勝負だ」
泉は表情を険しくさせた。
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