Animal People3-旅立ち

□3.守るべき存在
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 雨の日ばかりの6月下旬。なぜかみんなピリピリしていた。特に竹流は動いていないと気がすまないというくらい落ち着きがなかった。それもそのはずである。利紗の生み月が近づいていたのだ。利紗自身には大きな体調の変化は見られなかったが、やはり心配なのである。
「利紗。何かすることある?」
「今のところないよ。というより、もう少し落ち着いてよ。家の準備はもうちゃんとしてあるんだからさ」
「う、うん。そうだね」
こんな会話を一日何度も交わす。さすがに利紗のほうがうんざりしてしまっていた。だが竹流の他にも特別落ち着かない人間はいた。まず1人目は新矢。織田家の現当主が新矢で、特に織田家の場合生まれる時に大切な物…腕輪とバンダナを作らなければならない。また自分が当主になって初めてのことなのでなおさらドキドキしていたのである。その姿を見て、さすがに未玲は心配だった。しかしこればかりは自分ではどうにもできないためただ様子を見ていた。2人目は病院の原先生である。病院には必ず人数分のベッドが必要なのでまずその対処に追われる。次に子供を診るのはかなり久しぶりなので、前のデータに目を通した。そして最後に安全対策を何重にもかける。生まれたばかりの時が実は1番狙われやすいのである。こうしてそれぞれできる準備を整え、今か今かと2人の子供が生まれてくる時を待った。
 そんなこんなのとある昼下がり、様子を見に来ていた望と話していた時、利紗はお腹に強い痛みを感じた。痛みに顔を歪める利紗に望は声をかけた。
「大丈夫ですか?利紗さん。陣痛、きたんですか?」
「そうみたいですね。あたた。かなり辛いや。…まず病院に連絡入れてもらえますか?次に竹流に。あと他の兄弟にもできたらお願いします」
「わかりました」
利紗に言われ望は動き出した。てきぱきと言われた順番に連絡を入れていく。一方、当の利紗は痛みをこらえきれず横になった。連絡を入れ終えると、望は利紗の手を握った。
「辛いと思いますががんばって下さい。してほしいことがあれば言って下さいね?」
「ありがとう。望さん。じゃあすいませんけど腰のあたりさすってもらえます?」
「わかりました」
望は利紗の腰を優しくさすった。
「…どうですか?少しは楽ですか?」
「はい。そのままでお願いします」
利紗はふうと息をついた。それから間もなく救急車が到着し、利紗は病院に運ばれた。病院についてしばらくは望が利紗についていた。だが竹流が到着するとその任を竹流に預けた。竹流は望がしていたように利紗の背中をさすりながら言った。
「利紗、大丈夫?」
「どうにかね。さすがに辛いけど」
「言葉で励ますのが精一杯だけど、がんばって」
しかし如何せん1人目なので時間がかかる。利紗も竹流も少しずつ疲れてくる。それを原先生や看護婦、又他の兄弟達が支える。気付くと夕方を過ぎ、夜になっていた。もう本当に生まれる間近。原先生も看護婦も竹流もみんな利紗を励ます。利紗はずいぶんと疲れてきていたが、力をふりしぼり腹圧をかけた。そして次の瞬間、赤ん坊の泣く声が響いた。竹流も利紗もはっとした顔をする。しわだらけの赤ん坊が原先生の手の中にいた。2人はしばらくその赤ん坊を見つめた。
「元気な女の子だよ。利紗ちゃん、竹流君」
原はそう言うと赤ん坊を一旦看護婦の手に渡した。そして全ての処置が済むと利紗の隣に寝かせる。利紗は優しく赤ん坊の頭を撫でた。
「ふふ。まだしわだらけだね。初めまして。お母さんだよ」
利紗はそう言うと微笑んだ。竹流もそれを微笑ましく見守る。その後後産が済むと利紗は赤ん坊と共に病室に移された。もう夜も遅くなってきていたが他の兄弟達は待っていた。まだ利紗が疲れており、赤ん坊も眠っているので、みんな少し覗くように生まれてきた赤ん坊を見つめた。みんながみんなどうしても顔が緩んでしまう。その様子を見て竹流と利紗も微笑む。だがやはり利紗がぼーっとしていたため竹流は利紗を休ませることにした。
「もう夜も遅いし、かなりがんばって利紗も疲れたはずだから今日はもう休みなよ」
「うん…」
「疲れているところ悪いんだけど、もう少しだけ待ってもらえるかな」
突然新矢が2人に声をかけた。2人揃って新矢のことを見つめる。
「ごめんね、突然。でも早めにやっておかないと大変なことになるからね。…今から生まれてきた赤ちゃんのバンダナと腕輪を作る。ただその時どうしても血が必要になる。だから起きちゃったらあやしてね」
「…はい。わかりました」
新矢は早速赤ん坊の足に針を刺し、血を少量取った。それを横に置いていた水の入った洗面器の中に落とす。次にその洗面器に白い布を浸した。すると見る間に布が赤色に色づいていった。
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