Animal People3-旅立ち

□2.悲しみの翼
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 まだ雨の日も少ない6月上旬。久々に晶は恵美理の様子を見にいった。竹流同様、恵美理は今年大学に入学した。第一志望の大学に入学し、楽しいキャンパスライフを満喫しているかと思いきや、最近大学から帰ってくる恵美理の顔は暗かった。さすがにこんなことが何日も続いたため晶は心配になったのである。恵美理の部屋の前に立つと晶は深呼吸をした。そして呼び鈴を押す。間もなくドアが開き、恵美理が出てきた。
「晶兄さん。珍しいね。どうしたの?」
「恵美理の顔見にさ。ちょっといいか?」
「え?うん。いいよ」
恵美理は少し不思議そうな顔をしながらも晶を部屋に上げた。晶がリビングにあるイスに座っていると恵美理がお茶を入れて持ってきた。
「何か本当に久しぶりだな。恵美理がうちに来るほうが多かったから」
「そうだよ。だからちょっとびっくりしちゃった」
恵美理は微笑んだ。晶は出されたお茶を少しすすると本題を切り出した。
「そういえば大学には慣れたか?」
恵美理の眉がピクリと動いた。しかしそれを気づかれないように無理やり笑った。
「うん。友達もできたし、授業も楽しいよ。本当にあの大学に通えてよかったよ」
口ではそう言っていたが、恵美理の顔は引きつっていた。だが晶はそれに気づかぬ振りをし、相づちを打った。
「そうか。それはよかった。いや、最近恵美理が暗い顔をして帰っている気がしたもんでさ。でも取り越し苦労でよかった」
「もう、晶兄さんたら心配性なんだから」
恵美理は笑った。先程より明るかったがぎこちない笑顔。晶はその顔を少し寂しそうな表情で見つめた。
 次の日、晶は午前中の講義科目を休み、恵美理の大学へと繰り出した。恵美理は、今日は2時限目からのようで10時半位に大学に登校した。晶は恵美理を見つけると気づかれないようにそっと後をつけた。その途中、恵美理は誰かから声をかけられた。
「お、島崎」
その声に恵美理の顔がこわばる。晶はその様子にピクンと反応した。そこには数人の男女立っていた。
「最近どうなんだ?姉ちゃんの様子」
男の1人が言った。しかしよく聞こえなかった為晶はもう少し近づき、聞き耳をたてる。するととんでもない言葉が聞こえてきた。
「あなたも本当は人殺しじゃないの?」
その言葉にみんなクスクス笑う。恵美理はそのグループのことを気にしないように早足で通り過ぎようとした。その時また男が口を開いた。
「おまえはとんでもない犠牲の上に生きているんだよ!」
恵美理はその言葉から逃げるようにその場から離れていった。一方晶はこの状況に呆然としていた。琉奈と恵美理の過去を知っている人間がいて、そのことを使って恵美理をいじめている輩がいるとは。何も知らないくせに。晶は恵美理のことが心配でいてもたってもいられなくなり、恵美理のところに飛んでいった。恵美理は晶が目の前に現れたのを見て、とっても驚いたようだった。
「晶兄さん…何でここに」
「やっぱちょっと心配でな。でも…あんなことになってるとは」
晶は顔をしかめた。しかし恵美理はぎこちなく笑った。
「何のこと?」
晶は驚いて目を見開いた。だが恵美理は相変わらず笑っている。晶は恵美理のことを見つめた。そしてしばらくすると少し視線を外した。
「何でもない」
「そう」
晶の言葉に恵美理はぽつりと言った。2人はそのまましばらく黙り込んだ。数分後、1時限目の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「もうすぐ人がいっぱい出てくる。邪魔になっちゃうね。晶兄さんも大学あるんでしょう?」
「ああ」
晶はぶっきらぼうに答えた。
「じゃあ、ちゃんと行って。私は大丈夫だから」
晶は恵美理のことを見つめた。
「ああ、わかった。じゃあ、また帰ってからな」
「うん」
恵美理はにっこり笑った。その顔はさっきよりは落ち着いていた。晶は不安を抱えながらも自分の大学へと向かった。
 その次の日から晶はできる限り恵美理のことを気にかけるようにした。また自分を責めて傷つけでもしたら元も子もない。恵美理の大丈夫の言葉は琉奈と同じ位信じられたものではなかった。最初はうまく隠していたが、次第に追いつめられるのが晶の目から見てとれた。晶はもう1度恵美理に聞いてみた。しかし恵美理はやはり微笑むだけで何も言わなかった。晶は心配で心配で恵美理を問いただしたかった。しかし恵美理の様子を見ているとそれははばかれた。必死に心配をかけまいとし、自分の力でどうにかしようとしていたから。晶は心配で胸に大きな不安を抱えたまま、ただ恵美理のことを見つめ続けた。
 それから数日後、晶が大学で授業を受けていると強い胸騒ぎを感じた。恵美理の一件があるので晶はすぐに教室を飛び出した。恵美理の大学に着くと、なぜか空気がざわついていた。
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