Animal People1-出会い

□10.お祭り騒ぎ
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 秋真っ盛りの10月。この大学で少し早い学園祭が行なわれようとしていた。晶の通う大学である。晶はサークルには所属していないが、学園祭のときだけは手伝うと約束していた推理小説会のところにいた。毎年このサークルでは推理ゲームをすることにしていた。メンバが自分の持つ知識を駆使して、6本の推理ドラマを作るのである。ドラマの中で謎を解く前に、20分間みんなが考えるのである。そしてその間に最初に謎を解いた人に商品が送られる商品は結構豪華で、これを目当てにくる人も少なくない。しかし、それを奪われまいと会の人達は頑張ってドラマを作るのであった。晶も1本のドラマを作るように頼まれた。まずは台本の内容を書いてきてくれということだった。晶はMoon Lightの依頼を参考にして、他の兄弟や高遠に助言をもらいながら、1冊の台本を書き上げた。次の日、晶は早速持っていき、会長の金城に見せた。
「へえ、君結構やるじゃん。僕達でも一筋縄ではいかないくらいだ。次にドラマを作るために役者を集めてきてくれ」
晶は少し考えた。そして零に電話をかけた。
「あっ、零兄さん?ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど、いいかな?」
 それから30分後、役者となる人が揃った。早速撮影が開始された。撮影していく度に、零からいろいろと注文が飛んだ。そこから撮るならこっちからのほうがいいとか。これじゃあまりにわかりやすいから、もう1度撮り直そうとか、もうみんながうんざりするほどに。しかし零の演技はとてもうまかったので、みんなは零の言うことを素直に聞いていた。2日後無事撮影がすんだ時、金城が零に聞いた。
「零さんは芸能関係の仕事をしてらっしゃるんですか?」
「いや違うよ。どうして?」
「あんなに演技うまいし、カメラとかのことについてもいろいろ知っていたから」
「確かにテレビ局は僕にとって馴染みの深い場所ではあるけど…」
零は少し口ごもった。そんなことを気に留めないで、晶が言った。
「へえ、それ初耳だな。まっ、零兄さんの演技見たときびっくりはしたけど。金城さん、零兄さんは探偵やってるんだ」
「本当ですか!?今度見学に行ってもいいですか?」
「別にいいですよ。晶、できあがったら1番に見せてくれよ」
「わかった」
「じゃあ、僕はまだちょっといろいろあるんで、これで失礼します」
そう言うと零は帰っていった。それから、晶は金城に手伝ってもらいながら1本のドラマに仕上げた。零によるカメラの位置や演技の指導によって、最高のできばえだった。
「なあ成田、これ最後のフィナーレにしようと思うんだが…どうかな?」
晶は飛び上がった。
「本当ですか!?ありがとうございます」
その日の夜、晶はうれしくてなかなか寝つけなかった。
 次の日、晶は早めに大学にいった。昨日のうれしさで、いてもたってもいられなかったのである。真っすぐに自分達が使う教室に向かった。しかし晶は教室に入る直前、中の様子がおかしいことに気付いた。息を殺して中をのぞいてみると金城と3人の男が話していた。
「この場所を俺達に譲れって言ってんだろう」
「何であなた達にこの場所を譲らなければいけないんですか。あなただたとえ、この大学の学長の息子でもそれは関係ないでしょう」
それを聞いて晶はびっくりした。この大学に学長の息子が通っていることは知っていたが、よりによってこの場所を狙っていたなんて。
「こっちが黙ってりゃあいい気になりやがって」
後ろにいた男の1人が金城の胸ぐらをつかんだ。
「力で解決しようたって、できるわけないんじゃないの」
見かねた晶は教室に入った。その場にいた全員が一斉に晶を見た。
「おまえ、誰だ?」
「俺?俺はこのサークルの手伝いをしている、成田晶だ。あんた達こそ誰なんだ?普通は名乗ってから名前は聞くものだぞ」
「てめえ、なんて口のききかたしやがる」
もう1人の男が叫んだ。
「まあ、待て。俺のこと知らないんだろう。俺はこの学長の息子の春日洋。まあ、よろしくな」
名前を聞いて晶はドキッとした。しかし相手の様子を見ていると、心配することはないように思われた。
「何でこんなことしていらっしゃるのですか?あなたのような方が」
「この人がこの場所を俺達に譲ってくれというのを聞いてくれないのでね」
晶は少し笑った。
「だからそうした?単純な方ですね。俺達もこの場所をそれなりの苦労をして手に入れたのです。普通は譲りませんよ。あなたは何不自由なく暮らし、手に入らないものも思い通りにならなかったこともなかったでしょう。でも思い通りにならないものはたくさん存在しますよ。たとえば人の心。これは仕方ありません。あなた自身ではないのですから。価値観や考え方が異なっているのが当然です」
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