Animal People1-出会い

□2.残りの兄弟
1ページ/8ページ

 優一が新矢達と暮らすようになってから、1週間半が過ぎた。優一は新矢達との生活にも慣れ、園にいた頃と同じように生活していた。それでも変わったことはたくさんある。特に朝は全然違っていた。朝は竹流が1番早く、朝食とお弁当を作ってくれる。新矢と晶も、ゆっくりと朝食をとれるくらい早く起きていて、優一はいつも晶に起こされてばかりいた。でもこの頃は、竹流と同じくらいに起きれるようになり、朝食やお弁当を作るのを手伝えるようになっていた。基本的に当番というものはなかった。ただ例外は夕食だけで、その他風呂掃除、洗濯などは誰かが自発的にやっていた。部屋の掃除についても、1週間に1度は少なくても掃除したほうがいい、と言われたくらいだった。ただ園にいたときにはなかった、特別な仕事が1つあった。それは…探偵の仕事だった。
 新矢はごく普通の会社員である。晶と竹流も普通の学生である。しかし、新矢達はもう1つの裏の仕事を持っている。それが探偵の仕事なのだ。それも自分達が持っている不思議な力を駆使して、闇に巣食う者の正体を顕わにするような、裏社会に対する探偵である。Moon Lightという名で、関西方面ではそれなりの探偵であり、警察はもちろん、日本中に知っている人はいるそうだ。ただ、事務所は構えず、インターネットによる特別なアクセスによって依頼を受けている。優一は最初にこのことを打ち明けられたとき、どう返したら良いのかとても迷った。そして仕事を手伝ってほしいと言われ、驚きと強い不安で、言葉が出なかった。でも手取り足取り仕事を教えてもらい、仕事に慣れてくると不安は消えていた。だが驚きはいまいちおさまらなかった。優一の主な仕事は、晶とともに過去に終えた仕事の処理をすることであった。新矢が入ってきた依頼の中から、次に受ける依頼を決め、作戦をたてる竹流は依頼をパソコンで整理する。竹流は、兄弟の中で1番手先が器用で、パソコンについても長けているため、家の家計簿や住所録などの管理などもしていた。それぞれの特技を生かしながら、新矢達は仕事を続けてきている。優一もがんばろうと思い仕事をやっていくがなかなかうまくいかない。最初からうまくできるわけないが、やるんだったら力になりたいし、自分の力と向き合っていくためには大切なことだと優一は思っている。優一はひとまず自分の長けている能力を新矢に聞いてみた。
「たぶん走るのが速いことじゃないかな。とくに短距離のほうが。でも水泳は苦手だと思うよ。猫科の動物は一般的に、水が嫌いだから」
そう返された。優一は確かにそうだと思った。走ることは得意だけど、水泳は苦手だった。一応25m泳ぐことはできるが。でも普通の仕事をこなしてるときは、あまり意味のない力だった。そう思って優一がしょんぼりしているのを見て、新矢が話しかけた。
「誰だって最初はそんなもんさ。僕だって父さんの手伝いで探偵の仕事始めた頃は、今の優一くらいだったよ。竹流だって最初から、ああいうことができたわけじゃない。養父が竹流に教えたからだよ。優一、そんなに焦らないで。ゆっくり自分ができることを見つけていけばいい。1ヵ月もたてば、大体のことはできるようになってくるよ」
そうだといいんだけどと、優一は心の中で思った。その後、新矢は晶達を呼んだ。そしていくつかの資料を3人に見せた。
「えっと、今回の依頼はある会社からの依頼で、親会社が不正な方法で、裏で莫大な富を得ているらしいので調べてほしいというものなんだ。今いろいろな方面から調べているんだけど、いっこうにつかめないから、その取引に深く関与していると思われる、親会社の幹部の邸を調べることにした。会社の方には、昼間の間に晶と竹流が行ってみてほしい。今日の夜から見張りをし、土曜日の夜に作戦を行なう」
優一は息を飲んだ。闇に対する探偵のため、法に触れるような危険なことをする可能性もあると、新矢から伝えられていた。こんなにも早くこの日が来るとは思っていなかった。でも逃げる気はほとんどなかった。こうして経験を積むことで、新矢達は力の使い方を覚えたんだから。優一は早く力を使いこなせるようになりたかった。誰かに迷惑をかけないために。そんなことを考えていた時、新矢の声が優一を現実に引き戻した。
「見張りについてもう少し言っておくと、時間は午前0時から午前4時まで。今日は僕が行く。明日は晶で明後日は優一と竹流。竹流は優一のことをよく考えてくれ。見張りの日はできるだけ学校から早く帰ること。少し準備があるからね。あと明々後日は、みんなで行くから、気を引きしめて、事故のないようやろう」
新矢の話が終わると、優一はすぐに部屋に戻った。恐怖と好奇心とが自分の中で渦巻いているのがよく分かる。
「とにかく、迷惑かけないようにしなくちゃ」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ