Animal People3-旅立ち

□12.園の秋祭り
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 木の葉も色づく11月上旬。優一のもとにうれしい知らせが届いた。三上園での秋祭りの知らせである。優一は懐かしそうに手紙を読んだ。
「どうしたんだ?優一」
「うん?三上園から手紙が来たんだ」
「へえ。何だって?」
「秋祭りやるから来て下さいって」
優一はそう言うとまた手紙に視線を戻す。零はその様子を見て微笑む。
「懐かしいな。しばらく準備が大変でできなかったから」
「そっか。なら、なおさらだね。それで…いつあるの?その秋祭り」
「えっと、ちょっと待ってね。…来週の土日だって」
「僕は一応両方とも空いてるな。他の兄弟にも聞いてみようか」
「そうだね。園のみんな喜ぶよ」
というわけで、優一と零は同じ部屋の晶を除くマンションの住民に三上園でのお祭りのことを伝えていった。大抵の者達は両方空いているようだったが、ちらほらと日曜がふさがっている者達がいたので、一応土曜日の予定になった。
 そして秋祭り当日。優一は他の兄弟達とともに三上園に行った。今日は久しぶりに利紗も唯を連れて一緒に出かけた。最近は受験勉強に終われ、家にこもりきりだった。今日のメンバーはフルメンバーだった。未玲もいたし、なぜか璃衣までいた。気分転換にと零が呼んだのだ。かなりの大人数のため、待ち合わせをしてそれぞれ自由行動にすることにした。優一は自由行動になると、まず赤木先生のところにあいさつに行った。
「赤木先生。こんにちは。大盛況ですね」
優一に気付くと赤木先生は顔を綻ばせる。
「あら、優一君来てくれたの」
「はい。みんなで」
「そっか、兄弟のみんなも来てくれたんだ」
赤木先生はにっこり笑った。
「今日はみんながんばっているから楽しんでってね」
「ありがとうございます。じゃあ、早速行ってきます」
優一はそう言って会場の中に入っていった。まずは1人で会場全体をぐるっとまわってみる。その途中、麗と出会った。
「あ、優一兄さん。来てくれたんですね」
「うん。でもがんばったね、準備。ここまでやるの大変だったでしょ」
「でも今回は私1人でどうにかしなきゃってわけでもなくて。ずいぶん楽だった」
麗はにっこり笑った。だが優一は意味がよくわからなかった。黙っている優一に麗は言った。
「私、今年で卒園ですから。2学期始まった位から少しずつ下の子達に仕事を分配しているんです」
優一は少し驚いた。
「そうか。もう麗、高校3年生か」
「うん」
麗は微笑んだ。
「でも個人的にはアルバイトしてお金貯めたり、一応大学行きたいから勉強したりして結構忙しいけどね」
優一は麗の生き生きとした表情を見てうれしくなった。
「そう言えば、麗、今もしかして仕事の途中?」
「一応ね」
「ごめん。呼び止めちゃって」
「いいの。見回りだから。そんなに気にしないで。優一兄さん」
あたふたとする優一に対して、優しく笑う麗。何か立場が逆になっていなくもなかった。
「優一兄さん。時間あるなら少し一緒にまわりません?」
「え?いいよ」
というわけで2人は一緒に歩き出した。しばらく歩くと焼きそばの屋台が目に入った。小学校中学年位の女の子がお客に焼きそばを渡している。だが結構並んで焦っているのか、受け渡しが少し雑だった。2人がその様子を見ていると小さな悲鳴が上がる。
「あ…」
女の子はお皿を下に落としてしまった。焼きそばが地面に落ちる。客の男の子は呆然とした。優一はそれを見て女の子を助けようとした。が、その優一の腕を麗がつかむ。優一は驚いて振り返った。
←「麗!?何で?あのままじゃマズいよ」
「お願い。もう少しだけ待って」
麗に言われて優一はしばし見つめていた。すると奥から中学生位の男の子が出てきて客の男の子に謝る。そして少し多めに盛った焼きそばを手渡す。その後、すぐに落とした焼きそばと皿を片づけた。それが済むとそれまでと変わりなく販売が再開された。その様子を見ていた優一は少し驚く。
「今回は何かあった時の対処方法を前もって考えてもらったのです。それで全てが解決されるわけではないですけど」
その時大きな音が響いた。2人は一斉にそちらを見る。高校生の男2人がすごい剣幕で怒っていた。
「あれは無理そうですね。ちょっと私行ってきます」
麗はそう言うと走っていった。優一はそんな麗のことを見守る。内心とてもハラハラしていた。数分後、どうにか話がついたらしく、男達は離れていった。優一はそれを見てホッと一息つく。そのうち麗が戻ってきた。
「ごめんなさい。優一兄さん。ちょっとあそこについててあげたいから一緒にまわれなくなっちゃった。優一兄さんはお祭り楽しんできてね。あ、あと手を出すのは程ほどにしてあげて。じゃあね」
麗はそう言うとまたで店に戻っていった。
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