Treasures★文

□あなたに、お前に似合う色
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今日は終業式。
羽学の制服はワンピースだから、12月にもなればコート1枚では寒くて。
目の前を色とりどりのマフラーが、なびいては通り過ぎてゆく。

それを幾つも見送りながら、少し冷えた指先を擦り合わせる。

クラスが違う私と志波君は、昇降口へと続くこの階段で待ち合わせするのがお決まりになっていた。
明日からは冬休みだから。
こうしてここで志波君を待つ事もしばらくなくなるのかと思ったら、少しだけ寂しい気もした。

ゆるゆると垂れ下がってきたピンク色のマフラーを。
俯き加減で口元まで持ち上げると。
覆いかぶさる黒い影に気づき、顔を上げる。

「待ったか?」

そう言って大きな手で頭を撫でてくれる存在は。
大好きな人…。

熱くなった頬を隠しながら首を振る。
視線を交え私が笑うと。
無口な彼も目を細めて笑う。
ごく自然に手をとり合い、歩き出すと。
私の目には、大きな背中と、たなびく黒が映る。
それは今年の彼の誕生日に私がプレゼントした物。

青みがかった黒髪。
そして力強い芯を持った志波君には。
きっと黒が似合うと思った。

黒いマフラーの隙間から見える焼けた肌が。
少し赤い気がしたのは、気のせいかな…。

そんな事を考えながら、手を引かれる。

下駄箱でまで来ると、クラスが違う為に一度この手を解かなくてはならない。
名残り惜しく目くばせしながら離れると。
すぐに下駄箱の影からヌッと現れる大きな影。

それがいつも嬉しくて、可笑しくて私は笑う。
そして志波君はそんな私に、不思議そうな顔をして見せる。

だから…。
上履きから革靴に履き替えると。
すぐにその逞しい腕に私は飛びつく。

この時間は。
一秒も一瞬も。

大切にしたいから…。

落ちて来るオレンジに向かって、今度は肩を並べて歩く。

口数の少ない彼は。
大抵私の取り留めの無い話を聞いてくれる。

体育でバスケの試合をして優勝した事を話せば。
「お前は応援専門だろ?」とか。

化学で若王子先生の質問に答えられた、とちょっと得意げに話せば。
「それ…俺でも分かる。スルメだろ?」とか。

不貞腐れた私を見下ろしながら。
優しく笑う志波君の横顔。
キラキラ揺れる黒髪。
「怒ったか?」と、からかう低い声。

そのすべてにドキドキして…。

ズルイ…と思う。

乾燥した空に映える夕日。
飛んでゆく鳥の影。

それを見詰めながら、志波君が口を開く。

「初詣。行くだろ?」

思ってもみなかった一言。
こんな風に、一緒に過ごす事を当たり前のように言ってくれる。

それがすごく嬉しい。

だから…。

「文化祭の時みたいにならないでよ?新年早々病院なんてヤダからね」

わたしもこんな捻くれた言葉を返す。

「あぁ」

そう一言だけ答え。
目を伏せる横顔は、どこか大人びていて。

悔しいけれど、ときめいてしまう。

「あ…」

パチリと目を開いた志波君が、私に視線を預ける。

「お前…今年は着てくるのか?」

去年、必死にアンネリーでバイトをしたものの。
予算オーバーで買えなかった晴れ着。

いつかのショッピングモールでのデートで。
志波君が私に似合いそうと言ってくれたピンクの晴れ着。
あれがどうしても欲しかった。
だから妥協したくなくて…。
去年は無くなく諦めた。

実は今年は準備万端だけれど…。
それは秘密にしておこうと。
ちょっとだけ意地悪をした。

「さぁね…それはお正月のお楽しみにしておいて」

私がプイっと反対側を向くと。
小さく笑う声が微かに聞こえた気がした。


1月1日、元旦。

私から志波君へのサプライズプレゼントがもう一つあるの。

真咲先輩が成人式で着た黒い袴。
それを先輩が志波君の家で着付けてくれる約束をこっそりしてあるから…。

だから、袴姿で迎えに来てね?

「七五三じゃないんだし…俺はいい」
なんて去年言ってたけど。
楽しみにしてるからね?

少しずつ…。
少しずつだけれど。

重ねてゆく時間。

これからもいっぱい…。
いっぱい2人の時間を創ろうね。

かけがえのない、一瞬を。

2人で…。


Fin

2008.12.31
 

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