捧げもの
□狐の嫁入り
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きっかけは、些細なことだった。
関東大会、青学の偵察のため氷帝戦を見に行った。
「おっ赤い髪なんてお前以外にいねぇと思ってたんだが・・意外にいるモンだな。しかも、髪型も微妙に似てるし・・ククッ」
隣りでそうジャッカルが笑うから、見てみるとワインレッドの髪をなびかせながら小柄な選手が跳んでいた。
俺は、その空へも届きそうな姿に、見入ってしまっていたのかもしれない。
「なあ、アイツなんて名前だ?」
そいつの名前は向日岳人というらしかった。
一瞬女と見間違うような容姿。
軽やかなプレースタイル。
綺麗に切りそろえたおかっぱの髪。
その全てがあの日以来俺の頭に焼き付いて離れない。
目を閉じれば浮かんでくるのはあの日の向日のプレー。
試合は負けてしまったけれど、羽が生えたようなプレー、そして、負けたあとベンチで涙を堪えていた様子は、俺の心に深く残っていた。
俺は向日と話がしてみたかった。
あんなに楽しそうにダブルスをするあいつがどんな気持ちでプレーしていたのか知りたかった。
だから、何でも面倒くさいと思いがちな俺があの日わざわざ氷帝に足を運んだのかもしれない。