捧げもの
□束縛
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お前の気持ちは、痛いほどにわかった。
あのとき、肩を震わせて泣いていたお前の気持ちは、痛いほど俺に伝わってきた。
そして、それは、俺の所為。
あの日、俺は斬髪してまで榊監督に頼み込みレギュラー復帰を果たした。
でもそれは同時に、日吉を補欠に追いやる行為だった。
監督から、「代わりに日吉が入る」という言葉を聞いたときは俺は頭がおかしくなりそうだった。
でも、日吉はきっと嬉しかったに違いない。
あれほど望んでいた、レギュラーなのだから。
俺は日吉のことを認めていた。
シングルスでは長太郎にも勝っているし、日吉が急成長しているから追い抜かれないように、とプレッシャーも感じていた。
でも、俺はあのときそんな日吉のことなど少しも頭に入れずに、ただ、自分勝手な気持ちでレギュラーに戻りたい、と頼み込んだ。
自分が幸せならそれでいい、そんな気持ちで。
日吉は補欠という座に、後戻り。
一度喜ばせておいて、突き落とす。
その衝撃は大きい。
そして、俺はその日の帰りに見てしまった。
校舎の影で、涙を堪えようとしている日吉を。
声をかける資格なんてなかったのかもしれない、でも声をかけずにはいられなかった。
「・・・日吉」
「宍戸先輩ですか」
日吉は振り返ると目に溜まっていた涙をジャージの裾で拭った
「あ・・・・あのよ・・」
「先輩。俺、先輩に伝えたいことがあるんですけど」
「・・・・・?何だ?」
「先輩。好きです。付き合ってください。」
俺には、選択肢などなかった。