捧げもの
□身代わり
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春の日差しももう終り、夏の厳しい日差しが差しこみ柔らかな風が吹く。
ドアを開けると病室に風が吹き込む。
風は、俺の頬を撫であの人の髪を揺らす。
もう1年近くもベッドに寝たきりのあの人。
「向日先輩」
じっと窓の外を見つめていたのであろう向日先輩は、俺が声を掛けるとゆっくりと振り向いた。
ただ、その頬は以前のような血色のよい頬ではなく、痩せこけた青白い頬。
「おー日吉、毎日来なくてもいいっつってんじゃん」
先輩は痩せた顔で笑った。
「べつに、いいんですよ」
俺はいいながら持ってきた花を花瓶に差す。
机にはいつものごとく、見舞いの菓子や果物など一つもない。
向日先輩の病室には、友達はおろか先輩の家族だって滅多に来やしない。
・・・まあ、BR優勝者には当然の報いなのかもしれないが。
この病室も政府の金で取られている。
見舞い以外の用事でならたくさん人が来た。
大半が、先輩と同じプログラムに参加した生徒の親。
何も先輩が全員を手にかけたわけではない、けれど、憎むべき対象、憎める対象がいるとすればそれは紛れもなく先輩だ。
先輩もそれを理解しているらしく、浴びせられる罵倒や暴力に文句一つ言わず耐えていた。
だが、それも2ヶ月もすれば次第におさまり、向日先輩の病室は水をうったように静まり返った。