捧げもの

□雨恋。
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「・・・・何だ・・・日吉か。」





俺の姿を確認すると、先輩はほっとため息をついた。

そして、どこか決まり悪そうに自分の飛ばしたボールを拾い始めた。





俺は、その様子を黙って見ていた。



どのくらい、ここでテニスをしていたんだろう、先輩は背中も、肩も、顔も足も腕も泥だらけだった。

華奢な足に刻まれた新しい傷跡を見て、俺は思わず目を伏せた。




先輩は、ボールを拾い終えると、テニスバッグにラケットを仕舞った。



そしてテニスバッグを背負うと、俺の方へ向かってきた。

俺は一瞬何故先輩が此方へくるのか解らなかった。

が、先輩の視線の先を辿ると俺の後ろの出口を見据えていたから、俺は出口から一歩はなれた。







「悪ぃな」

すれ違い様に、先輩がぼそりと呟いた。



「?」

「・・・や、何でもね。気にすんな。」






そういった先輩の顔を、俺は横目でしか確認することができなかったけれどその表情は今でもはっきりと思い出せる。



びしょぬれだった。

雨の所為か、汗か、傷口から流れる血か、それとも涙か。

それは解らなかったけれど俺はその表情を見たとき胸の中で何かがコトリと動いたような気がした。



俺はその表情を見た瞬間、先輩を無性に引き止めたくて、言った。
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