捧げもの
□雨恋。
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パコン パコン
「テニスボールの・・・音?」
俺が通り過ぎるはずだったテニスコートから音がする。
土砂降りのテニスコートで、一体誰がテニスなどしているのだろうか。
気になって俺は、傘と鞄をその場に放り出してテニスコートのフェンスを乗り越えた。
そこに居た人物に、俺は驚いた。
「ハァ・・・ハァ・・・っ・・・ダメだ・・・・っ・・・・こんなんじゃ・・・・・足りねぇっ」
そこで土砂降りの雨を受けてひたすらテニスボールと格闘していたのは、向日先輩だった。
先輩は俺がコートに入ってきたことに気づく気配もなく、泥まみれで跳んで、ボールを打っていた。
何度もぬかるんだ地面に足を取られて転んで、足からは血が流れ出ていたけれど、先輩は決してやめることはなかった。
痛々しい光景だった。
先輩の表情、雰囲気が普段見せるものと全く異質のものを放っていた。
俺は、先輩に近寄ることも声を掛けることもできず、ただ黙ってその様子を見つめていた。
「俺のせいで負けんのは・・・・・もう嫌だっ・・・・・!」
のたうち回る先輩は、何もかも投げ捨てているようだった。
「時間がねぇっ・・・時間がねぇんだ・・」
カシャン
「っ!?誰だ!?」
俺が気づかないうちに触れてしまったフェンスの音に、先輩は飛び上がってこちらを見た。