捧げもの

□雨恋。
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相変わらず不気味な笑い方しやがる、と心の中で思いながらも岳人は日吉に空いた両手を見せた。





「見りゃわかんだろ、カサがねーんだよ」



「傘・・・・」

「そ、傘。」



「・・・・・・俺、傘持ってますよ」

「えっ、マジ!?」





そういって日吉が見せたのは1つの傘。









「・・・バーカ!1コじゃ意味ねぇじゃん。日吉、家逆方向だろ?」

「・・・・・」

「俺、走って帰るから、さ。」

「べつに・・・・」

「?」

「いいですよ、寄り道くらい。」

「・・・・」





岳人は驚いた。

日吉がこんなに優しさを表現したことがあっただろうか。




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「いいですよ。寄り道くらい」





言ってから、自分で驚いた。



こんなにも素直に、自分の気持ちを表せたのは何年ぶりだろう。

不思議な力があった、この雨の日には。











俺は、この先輩のことが嫌いだった。



気持ち悪いほどに綺麗に揃った髪形も、妙に自信に満ち溢れているところも、大きな一重のどんぐり目も。

おせっかいで後先を考えない単純な性格も、気に食わなかった。

何よりダブルス専門プレーヤー。

だから、俺はこの先輩を馬鹿にしていた。









俺がこの先輩に特別な感情を抱くきっかけになった出来事は、雨の日に起こった。





その日俺は鍵当番だった。


部活が終わり、部室の鍵を閉めた頃はもう太陽は沈んで校内には誰もいないようだった。

幸いその日は古武術の稽古も休みだったから俺はテニスコートの方から遠回りをして帰ることにした。





(今日は雨でミーティングだったから、コートを見ていないしな)



そんなことを考えつつ、ビニール傘を差して歩いた。

ザーザーと雨の止む気配はなかった。

俺が透明なビニールの傘越しに空を仰いだその時だった。
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